出会い

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出会い

 菅野(すがの)は中学生の頃に付き合いのあった友人の中でも仲の良い方の人物であったが、僕の中学校の学区は田舎特有の広さなのか菅野の家までの距離が恐ろしい程に長く、学校以外ではほとんど顔を合わせる事が無かった。 その為、中学校を卒業してからは一切連絡を取らずに今日まで過ごしてきたが、まさかこんな場所で再び出会う事になるとは驚きだ。 「菅野は職安に用事があるの?」 僕は代わり映えのしない毎日の中で無職仲間という一筋の希望と久しぶりに会った友人に高揚感を覚え、菅野に質問した。 「え?ああ・・・そうなんだよ」 よっしゃあ!やっぱり仲間だ!僕は少し興奮していた。焦りを感じていた時期に久しぶりに出会った友人が僕と同じ境遇の仲間だと確信し、冷めきっていた体の血が沸々と湧き上がる様な気分だった。   「いやぁ、大変だよなぁ・・・再就職ってヤツは」 「僕もさっきまで求人票を見ていたんだけど、全然良いのが無いよ」 「菅野は何か次にやりたい事とかあるの?」 僕自身まだやりたい事も見つかっていないが、久しぶりに出会った友人に対してまるで先輩の様な口ぶりで饒舌に言葉を並べ、少しオーバーな身振り手振りで語っている自分に気がつく。  そんな僕の様子を見て菅野はバツが悪そうに口を開き始めた。 自分が今日初めて職安に来た事、今の会社には仕事内容としては満足しているがサービス残業等も多く転職を考えているという話だった。  ひとしきり話し終えた菅野の姿を見ながら、僕は顔から火が出る程恥ずかしくなってしまった。さっきまでの僕は先輩面をして何を語っていたのだろうか。仲間を見つけたと勝手に勘違いし、退屈な日々に閉じ込められた言葉達が湯水の様に溢れ出たが、それが何だというのか。 ここにいる菅野は確かに転職を考えてこの場所に辿り着いた様だが、僕との差は歴然だった。僕が退屈だと感じながら日々を過ごす一方で彼は毎日仕事に励み、その中で苦悩しながら今日この場所にいるのだ。  帰りたい・・・気がつくと僕は心の中でこの言葉を何度も反芻(はんすう)していた。 勝手に勘違いした上に自分本位な考えなのは十分理解しているが、もうこの場所にいるのは限界だった。職安に通っていると何となくその人がどういう人物なのかが服装からも滲み出ている。よくよく思い返すと、確かに少し小綺麗な格好をしながら向かってきた菅野は僕が求めていた人物では無かった。 渇き切った心を満たしてくれる一筋の希望、これは僕が勝手な解釈で生み出した幻想だったのだ。  そんな僕の心をよそに、菅野が口を開く。 「なぁ、久しぶりに会ったんだし飯でもどうだ?」 これ以上何を話すというのか。先程から同級生との差を感じ、意気消沈している僕の胸の内を察してほしい。そんな酷い話があるのか、拷問だろう。 そんな考えに反し、僕は少し興奮していた。
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