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注文した「てりやきバーガーセット」が2つ手渡されると、すぐに近くの広い駐車場に移動した。彼はガサガサと慣れた手付きで袋を開けると僕にドリンクのお茶を手渡してきたので、僕はそれを目の前にあるドリンクホルダーに差し込んだ。彼は自分が頼んだコーラを彼の目の前のドリンクホルダーに同じ様に差し込んでいた。
次にフライドポテトをどうするか、という話になったがフライドポテトはさすがにこぼれやすいので、車のセンターコンソールに付いている2つのドリンクホルダーに差し込み、そこから食べるようにしようと話をした。
最後に手渡されたメインディッシュであるバーガーはてりやきソースがたっぷり入っている為、食べる時にすごく苦労した。口の周りをナプキンで拭いながら包みを少しずつめくり、ソースがこぼれないように十分気を使いながら口の中に入れていく。途中でドリンクやフライドポテトを挟みながら、気付いた時には頼んだセットはほぼ完食していた。途中で彼がてりやきソースをこぼしながら最悪、最悪だ、と文句を言いながらナプキンを使ってシートを拭き取ってた。
「いやぁ、食べたね!」
僕が満足そうに言うと、
「あれで足りた?バーガーはもう1つ頼めば良かったなぁ・・・」
などと、その細身からは信じられないほど後ろ髪引かれるような事ばかり口にしていた。菅野って思ったより食べるんだね、等と話しながら2人で車を降りてゴミを捨てに行く。外に出ると少し肌寒く、食べ始めてから結構時間が経っている事に気付かされた。
ゴミを捨て終えた僕らは車に戻り、駐車場を後にした。
彼はカラオケでも行く?と聞いてきたが、僕は歌には自信が無いこともあり、
やんわりとそれを断り帰路に就く事にした。何よりも食事も終えた今、これ以上勝ち組の菅野と一緒にいると劣等感に苛まれるようで嫌だった。
田舎の夜は早い。まだ21時前だというのに夜道を照らす街頭はまばらで、僕は薄暗い夜道を照らすヘッドライトの光を眺めながら喋る内容を考えていたが、特にこれといった話が思い浮かばなかった。そうこうしている内に車が僕の家の近くに差し掛かり、また明日から退屈な日常を過ごさなければいけないという虚無感が押し寄せてきたが、今日は久しぶりに楽しい時間を過ごしたな、と自分を納得させる様にシートベルトを外した時、運転席から彼が僕に話しかけてきた。
「携帯電話って持ってるの?今度連絡するから番号教えてよ」
ああ、最近人と触れ合う機会が少なかった事もあり、すっかり失念していたが普通の社会人は連絡先を交換し連絡を取り合う事もあるんだった。僕に連絡先を聞いている彼はほとんど社交辞令の様なものだと自覚しているが、それでも今日という日を大切にしたいと思い、僕は携帯電話を取り出した。
*
ジリリリリリリリリ・・・
これは毎日の日課だ。朝はいつもこの目覚ましの音で目が覚める。
いや、実際には完全には目は覚めていないので、布団の中から腕だけをモゾモゾと音の鳴る方へ伸ばして、掌を何度も上下に動かしているだけなのだが。
何度も同じ動きをしている内に先程からけたたましく鳴り響く音が止んだことを感じると、今日も一日が始まるのだと実感する。
「8時か・・・」
そう呟き、昨日の出会いを思い返しながら枕元の煙草とライターに手を伸ばすと、慣れた手付きでタバコを口に咥えて火を灯す。口から無気力に煙を吐き出しながら今日は何をしようか等と考えていると、
トゥルルルルトゥルルルル・・・
先程の目覚ましとは違う嫌な音が耳を劈く。
僕の携帯電話が鳴っているのだが、こんな時間に電話してくるヤツなんていたかな?と思いながら音の鳴る方に目をやると、画面には「菅野浩平」と表示されていた。
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