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数分後、外に出ると澄み渡る青空の下、ピカピカの新車が出迎えていた。
挨拶も早々に済ませると、菅野はシートベルトをしようとしている僕の事などお構いなしに走り始めた。どうやら昨日別れた後に一人で駅前のパチンコ屋に立ち寄り、良さそうな台をピックアップしていた様だった。
「早くしないと狙い台が取られちまう。負ければ誰かの養分!頑張ろうぜ」
どこかで聞いた様なセリフを並べながら菅野は道中でもこれまでの武勇伝を熱く語っていた。その前のイベントでは3万勝ったとか、違う店のイベントでは2万負けて行く気がしないとか。僕はその話を聞きながら不安と興奮を覚えるとともに、結果的には負けているのでは無いか?と思ったが、これから向かう車内でその話をするのも野暮だと思い、相槌を打ちながら静かに聞き入っていた。
気が付くと目の前に目的のパチンコ屋が見えてきた。店の前には客と思しき人々が数人、自動ドアの前に座り込んでいる。ガラ悪いなぁ・・・目の前の景色を見ながら最初に感じた印象はコレだった。飲食店などに並んでいる客は皆立って順番を待っているだろうが、僕の視線の先に映る彼らは当然の様に座り込んでいるのだ。この町で店の前に座り込むのはコンビニ前のヤンキーかパチンコ屋の開店待ちくらいだろうな、僕はそう思い眼下に広がる景色に奇妙な違和感を感じていた。
駐車場に着くなり車を降りた僕らは先程見た列に向かって歩き始めた。
列を目前にして不安を感じている僕の気持ちなどお構いなしに、
「すでに割と並んでるな・・・台取れるかな?」
菅野は駐車場に入ってきた新たな客と思しき車を見るとポケットから取り出したタバコに火を付け、歩く速度を早めながらそう呟いていた。
列の最後尾に着くと、僕もタバコに火を付け時間が過ぎるのを待った。
菅野が言う様に割と並んでいるのかどうかは僕には判断できなかったが、待っている間に人数を数えてみると先程駐車場に入ってきて僕の後ろに並んだ客と僕らを含めて大体20人程度で、並んでいると言ってもこんなものなんだなと思った。最前列に座り込んでいる客は仲間と思しき人達と道中の菅野の様に嬉々として武勇伝を語り、列の真ん中の方にいる30代に見える女性はコンパクトミラーを片手に化粧に夢中だ。僕らの後ろに並んだ40代のおじさんは
週刊誌に見入っている。僕は、朝からパチンコ屋に並ぶこの列の中だけを切り取っても色々な人がいるんだなぁと思い、日々の焦燥感が薄れていくのを感じていた。
「何か、居心地良いかもな・・・此処」
菅野に向かって僕が呟く様に言うと、
「そうだろ!?朝から並んで勝った時なんて最高だよ!」
彼は満面の笑みを浮かべながら並んで勝った時のエピソードを熱弁していた。僕は確かに居心地は良いと言ったが、待つのは嫌いな性分なので彼の意見には同意しかねるなと感じていたが、勿論そんな事を言う空気では無いのは読み取れた。他愛のない話をしながら30分程待っただろうか、おもむろに最前列の人達が立ち上がり始めるとパチンコ屋の自動扉が開き始めた。
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