デビュー

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「おはようございます!いらっしゃいませー!まもなく開店となります。もう暫くお待ち下さい」  ゆっくりと開いた自動扉から出てきたのは、大きな声でハキハキと喋り清潔感がある20代後半に見える男性店員だった。僕の想像ではチャラチャラとした態度の悪い店員が出てくるのだろうと勝手に思っていたので、正直面食らった。社員なのだろうか。もしそうだとしたら、なぜパチンコ屋を選んだのか。何も知らない僕からしたら社会の吹き溜まりの様なイメージしか無いのに。僕はこの時、パチンコ屋よりも店員の方が気になり始めていた。 「皆様、間もなく開店となりますが入場の際には押したり、走ったりしない様お願いいたしまーす!!」 そんな事は言われるまでも無いのだが、様々な人がいる中で数人はそんな人がいても不思議じゃないなと思いながら列に並ぶ人々に目をやると、それぞれが今か今かと待ちわびる子供の様に目を輝かせているのを肌で感じ、それを見た僕自身も気持ちが落ち着かない自分がいる事に気がついた。  その時、店内からどこかで聞いたようなアップテンポなBGMが流れてくると、 「それでは開店になります。最前列の方から順番に入場下さーい!」  先程の店員が声を発すると同時に先頭の集団が我先にと走り出した。 先頭に並ぶということは菅野が言う狙い台の様なものがあり、それを取る為に先程店員から忠告された入場時の注意点を無視しているのだろうという姿を見て、やはりロクでもないなと思った。しかし並んでいた客はそれに続く様に次々と走り出し、前の方では本当に隣同士ぶつかっている光景も見られた。列の真ん中の方で化粧をしていた30代くらいの女性も鬼気迫る表情を浮かべながら店内に消えていった。 「オレ、先に入って狙い台見てくるからゆっくり入ってきなよ」 いよいよ僕らの番だと思った矢先、菅野はそういうと僕を置いて一人で走り出してしまった。何のために僕を誘ったのか。と疑問に思いながらも僕は特に急ぐ理由も無かったので言われた通りゆっくりと入場した。入場して驚いたのは店内に流れるBGMのその音量だ。店の外ではそこまで気にならなかったが、いざ入ってみると店のどこにいても聞こえる様な大音量で耳が痛くなる。 店内のBGMに嫌悪感を抱きながら周囲を見渡すと、所狭しと並ぶパチンコ台がそれぞれ独特の色を発しながらキラキラと輝いている。 「これがパチンコ屋か・・・」 僕は初めてのパチンコ屋に圧倒されながらそう呟く。ふと、後ろに気配を感じ振り向くと後から並んできた列の人達が走ってくるのが見えたので、僕は慌てて店の奥へと歩を進めた。
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