道を尋ねる勇気に敬意を払う

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 それから五分後…… 私は少し歩いた先にある地下鉄に乗るために、その前の横断歩道前で信号待ちをしていた。すると、再び何者かに呼び止められた。 「あの、少しいいですか?」 私を呼び止めたのは少年達の集団のうちの一人だった。少年達は皆、黄色い通学帽子にリュックサック姿。班ごとの行動で遠足に行きますよと言わんばかりである。 しかし、こんな町中で子供達だけでいるところ現地集合なのだろうか? と、疑問に思いながら私は少年達に問いかけた。 「どうしたのかな?」 「すいません。動物園(どーぶつえん)に行きたいんですけど、地下鉄の乗り替え方を教えて下さい」 駅員に聞けよ。路線図だって見ればわかる年齢(トシ)だろうに。 この危ないご時世なのに街中を子供達だけで歩かせやがって…… 引率の教師もいないのか? 私はこう思いながら心の中で舌打ちを放った。 それから私は偽りの笑顔を浮かべながら、動物園までの地下鉄の乗り換えの説明を行った。 「いい? あそこから降りてすぐに改札があるから、それに切符…… カードかな? 通したら真っ直ぐ行って、そのまんま階段降りて右の青い線のついた電車に乗るの。そこから二駅先で降りると赤いマークが見えるから、それに沿って歩くんだよ? その先にある赤い線のついた電車に乗って三駅先が動物園だよ。電車内でも『動物園行きはここで乗り換えです』って放送入るから、よく聞いとくんだよ?」この説明であるが、私に尋ねてきた「班長」と思われる少年がメモに書き写していた。この学校はスマホ禁止なのだろうか。  私がこう説明しているうちに信号は青になっていた。少年達は私に向かって脱帽し「ありがとうございましたー」と甲高い声で叫び、ペコリと礼をした後、ドタドタと走りながら横断歩道を駆け抜けて地下鉄へと降りて行った。 礼儀こそ正しいが、こういうところは子供か。その様を見た私は僅かであるが微笑ましい気分になった。
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