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「暑い……」
季節の変わり目はいつのまにか過ぎ去り、今日もまたじめじめと蒸し暑い一日が始まっていた。
高い湿度と、頭上から容赦なく降り注ぐ直射日光に苛まれながら、俺はアスファルトの道路脇をだらだらと歩く。
そこかしこから鳴り響く虫たちの羽音が、またこの季節がやってきたことを知らせる。
大学が夏休みに入り、俺は実家に帰省していた。
「あんまり変わってないな……」
少し田舎なこの地域の住宅街は時折不規則に家が立ち並び、行きなれない場所だと迷路のように入り組み、たちまち人を迷わせる。
そんな場所でも、数年も暮らしていればもう庭のようなものだ。
どんなに風景が変わっても、その移り変わりとともにたくさんの思い出が残る場所。
昔はよく後輩の女の子と二人で歩いていた。一つ年下の女の子でちょっと変わった性格の子だった。
彼女はオカルトやらSFやらが好きで、隣でよくそんな話を聞かされていた。
そんな彼女が、ある日突然交通事故で亡くなってしまった。
高校二年目の夏の出来事だった。
そんな彼女との思い出が詰まった道を、俺は当てもなく歩き続けている。
彼女のことが好きだったのかと聞かれると、正直よくわからない。
だけど、一緒にいてそれなりに面白い毎日だったことは覚えている。
好きなことを夢中で話す彼女の瞳はいつも奇麗だった。
澄んだ瞳をいっぱいに開いて、無邪気で楽しそうに笑う彼女に、もしかしたら惹かれていたのかもしれない。
自分と違って、いつも笑顔で明るく振る舞う彼女がとても眩しかった。
そんな彼女のそばにいるだけで、なぜだか自分の日常が明るく彩られていくようだった。
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