ムコウノカノジョ。

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「……、帰るか」  不意に胸が締め付けられるような感覚に襲われて、俺は踵を返す。  そんな時だった。 「あれ、ここどこ? なんか見覚えがある気もするけど……」  近くからそんな声が聞こえてくる。 「んー……、こんな道だったっけ? なんか違うような……」  T字路の曲がり角から声がだんだんと近づいてくる。  どうやら女の子の声みたいだ。言葉の内容的には迷子みたいだが。  俺はやれやれと呆れながらため息をつくと、迷子を道案内するべく声のする方に向かって歩き始めた。  それから曲がり角がすぐ目の前に差し掛かったところで、彼女は急に現れた。 「もうっ、っていうかそもそもここはどこ!?」 「うおっ」  それに驚いた俺はとっさに変な声が出てしまった。  彼女もこちらに気づいた様子で、すぐさま向き直って頭を下げる。 「ああっ、すいません。ちょっと道に迷っちゃったみたいで――」  そう言って彼女が顔を上げた瞬間に、俺は目を見開いて固まった。  あどけなさの残る顔立ちと、思わず吸い込まれそうになるくらい澄んだ瞳。  高校の学生服に身を包み、身長は俺よりも頭一つ分小さい。  長い黒髪に太陽の光が反射して、キラキラと輝きを放っている。  数年前に亡くなった彼女にそっくりだ。  他人の空似なんてよく言うが、これはもう似ているとかいうレベルではない。 「あ……、えっと……」  あまりにも似すぎていて、つい言葉が出なくなってしまった。  俺が動揺しているのと同じように、なぜだか彼女も動揺した様子で俺を見つめている。  それから間もなく、こう呟いた。 「せん……ぱい……?」  その言葉を聞いた瞬間に、俺は頭が真っ白になってしまった。
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