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俺を先輩と呼ぶ後輩女子なんて限られているが、彼女の容姿を見るとそんな人物は一人しか思い当たらない。
「え……?」
なんで、どうして。彼女はもうとっくに亡くなっているんだ。
だとしたらこの女の子は誰だ。
暑さで幻覚でも見ているのだろうか。
さっきまで暑さでやられていた体温が急激に下がり始め、だらだらと垂れ流していた汗が余計に体温を奪っていく。
困惑している俺の心境などお構いないかのように、彼女は再び話し始めた。
「やっぱり先輩だ……。やっと、やっと会えました!」
無邪気にそうはしゃぐ彼女をじっと見つめたまま、俺はただ無言で立ち尽くしていた。
驚いたのはもちろんだが、彼女を見ていると昔の思い出が瞬く間に蘇っていく。
懐かしい。とても眩しくて、なんだか温かい。
「先輩? どうかしましたか?」
固まった俺の顔を覗き込むように、彼女が顔を近づける。
「あれ、私が誰だかわかりますか?」
困ったような表情でこちらを見つめる。
「おーい、もしもーし? もうっ、先輩ってば!」
痺れを切らしたように彼女が声を上げる。
「へっ!? あっ、いや……、えっと……」
ようやく声が出たかと思えば、今度は言葉が出てこなかった。
何せ彼女はもういないんだ。あの時亡くなってしまったのだから。
じゃあ今ここにいる彼女は一体……。
「どうかしましたか?」
不思議そうな表情を浮かべる彼女。
身長差があるせいで基本的には下から見上げられる形になる。
見慣れていた彼女の姿だったが、今はそれよりも現状の異変についての処理で頭が一杯一杯になっていた。
それから数秒だけ俺をじっと見つめてから、彼女が嬉しそうに微笑んだ。
「まぁ、とりあえずよかったです。こうしてまた先輩に会うことができましたから」
そう言った彼女の笑顔が、すごく懐かしくて、好きだった。
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