確信犯

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 事件当日の午前7時46分、帝都警察に1本の電話が入った。 「人を殺しました。犯人は自分であります。場所は被害者自宅前で住所は……」  殺人という割にはあまりにも淡々とした声だったので、電話口に出た警察官は『いたずら電話か』と疑ったそうだ。だが万が一を考えて近隣のパトカーに出動を要請。同時に消防へ救急車の出動を依頼したという。 「……で、『こういうこと』か」  やってきた捜査一課の十六夜真也(いざよいしんや)が顔をしかめる。  閑静な住宅街に不釣り合いな『KEEP OUT』の黄色いテープとブルーシートで囲われた一角が異様な雰囲気を醸し出していた。野次馬たちが興味深げにスマホのレンズをこちらに向けている。 「見事にね、これは」  自前のスマホで死体の写真を撮っているのは年下ながら十六夜の女上司となる望月萌歌(もちづきもえか)警部だ。  ブランド物の高そうなグレーのスーツを着た白髪の被害者は救急搬送するまでもなく、完全に事切れていた。何しろ背中から心臓目掛けて長い一本の矢が突き刺さっているのだから。  ピクリとも動かない身体、瞳孔の開いた眼球を見るまでもなく即死なのは間違いあるまい。 「とりあえず、死体付近の証拠については確認がとれたそうです。あとは警察指定病院に持ち込んで死亡診断をお願いしようかと」  救急隊員が「死体を運んでいいか」というので望月が「お願いします」と頭を下げた。 「で……問題は『犯人さん』か」  十六夜が忌々しそうに回転灯を回しっぱなしにしている1台のパトカーに目を転じる。その後部座席に、『自首の電話』を掛けてきた男が座っているのだ。今のところ特に取り乱すこともなく、じっとしているという。  黒の上衣に灰色の馬乗袴、角帯に白の足袋という完全な弓道衣姿。上背は190を超え、体重は100キロに迫るほどの大きな身体。短く切り揃えられた頭髪に、太い眉。強い意思を感じさせる鋭い眼差し。 「容疑者の名前は的場陽一(まとばよういち)というそうです」  聞き取りを担当した警察官がやってくる。 「動機とかは? 何か喋ってるの?」  望月が問うと、その警察官が少し困ったような顔をして頷いた。 「はい、一応は。的場が言うには『自分は己の弓道の何たるかを被害者である奈須大夜(なすだいや)に知らしめるために殺した』とか」 「やれやれ、何だよそりゃ。犯人を見つける面倒は省けたかもしれんけど苦手なんだよ、そういう手合いは」  十六夜がぼりぼりと頭を掻いた。 「……『確信犯』ってのは罪の意識がないんで手に負えないからな」
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