タイム・イズ・スパークル

4/9
前へ
/9ページ
次へ
 本で読んで考えたり、令和であればネットやオンラインで学んだりもする。そういえば将棋だけは、ほとんどの時代で趣味にしていたような気がする。それなのに未だにこのレベルとは、急に恥ずかしくなってきた。 「金が浮いてますよ。それだとちょっと危険ですね」  そう助言されてまた考える。金を戻させてもらって、先に銀を前に進めた。これで金も銀も今は取られても取り返せる。  どうしたら駒を守れるかな。どれを紐付けてあげればいいんだろう。どうやったら玉を守れるんだろう。そうやってずっと頭の中で考えていく。 「緊張してます?」 「そうですね。いつもより頭が回らないです……ここ、玉は逃げたほうがいいですか?」 「ですね。すぐにどうこうなるわけじゃないですが、睨まれているだけでイヤですよね。軌道から外してあげるのが一番です」  私の玉は、角の軌道にあった。間に他の駒がいくつかあるので、すぐに取られることはないが、やっぱりよくないことらしい。  角は斜めであればどこでも何歩でも進めるのだが、使うのが難しいと思う。すごく強いのに上手く使えない。  その点飛車は、縦横に何歩でも進めるので初心者には扱いやすい。扱いやすいのでつい無駄な動きをしてしまうともいえる。そして角は扱いが難しいので、つい放置してしまいがち。結局初心者はもて余してしまう最高の騎士たちなのだ。  彼のような上手い人たちは、角も飛車も同じように強く、そして無駄な動きなく美しく利用する。駒を完全に自分のものにしていた。  私も上手くなりたい。将棋もだし、人生も。上手く扱って彼の人生を救えたらいいのに。  まもなく彼は、自宅の火事で亡くなった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加