一人組長

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昼、舗道を歩いていると、ヴィトンの財布が落ちていた。慌てて駆け寄り、財布をひろった。中を開けると、札束がぎっしり。100万円くらいはありそうだ。 落とし主はまだこの辺にいるかもしれない。辺りを見回すと駅へ行く方向の30メートルくらい先に、舗道をうつむいて歩いたり植え込みを覗いたりしている男がいる。 おれは男を追いかけた。 「あの、もしかしてこの財布落とされました?」 「あっ、そうです。見つけていただいて、ありがとうございます」 仕立てのよいスーツを着た、品のよさそうな男。50代半ばといったところか。おれはその次の言葉を待つつもりで、男の顔をじっと見た。 「では、これで」 「あの。大変失礼ですが、落し物を拾った人への謝礼が法的に義務となっているのを、御存じでしょうか」 「はい?」 「よく言われますよね。財布をひろった人への謝礼金の相場は、だいたい1割であると」 男の目が一瞬ひかったように感じたが、すぐに元の柔和な表情に戻った。 「ああ、こちらこそ失礼いたしました」 男は財布を開けると20枚の1万円札を取り出し、おれに差し出した。そんなにもらえると思っていなかったので、おれはぎくりとした。
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