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【みーつけた】
灰色の翼を広げ夜空を飛び回り、上空からターゲットを探していた私は、夜景が綺麗に見える丘の上の駐車場に降り立った。そして私は体を透過させて男女二人の乗る車の中に入り込こみ、後部座席から二人の様子をうかがった。
「ユウタさん。今日は、私なんかに付き合ってくれてありがとう」
「僕も楽しかったよ」
「ユウタさんはどんな子がタイプ?」
「特にこだわりはないよ」
「イケメンだから、もてるんでしょうね」
「そんなことはない。ヨーコさんこそ、とってもかわいいし」
「もっとかわいい子はたくさんいます」
「僕は、ヨーコさんみたいな人が好きなのかもしれない」
「え?」
それから、しばらくの間二人は静かに夜景を眺めていた。いつの間にか二人は手を握っている。ユウタがヨーコの方を向いた。うっとりした目で二人は見つめ合った。
「ヨーコさん。僕と付き合ってください」
【私の思った通りね!】
ユウタが告白した。ヨーコが頷きかけた時、私は悪魔の槍をヨーコに向けて魔法をかけ、ヨーコの体を乗っ取った。私はヨーコの手をユウタの手から振りほどかせ、ちょっと怒った表情にさせて、そして言わせた。
「ごめんなさい。私、あなたのこと、恋愛の対象とは思えないの」
「えっ!? ヨーコさん・・・?」
「ごめんなさい。でもそういうことだから。私、ここで降りる。さよなら」
私はヨーコを車から降した。ユウタはショックのあまり言葉を失い運転席でただ呆然としている。私が邪魔しなければ二人は付き合っていた。私はそんな二人の愛を消滅させた。
✳
私は堕天使ルカ。白い翼の天使だった頃は人類に愛を芽生えさせる役を担っていた。告白できずにいる二人の背中を押してあげたり、偶然を装って素敵な出会いをプレゼントしてあげたりね。でも私はそれに嫌気がさしてしまった。いくら人類を幸せにしても私には何の見返りもなかった。
ある日、私は天界から抜け出した。そして魔界へ降りていった。魔界に近づくと、悪魔が私に言った。
~千の愛を消滅させよ。そうすれば、お前を悪魔として認めてやろう~
私は小さな悪魔の槍を受け取った。
✳
ヨーコは思ってもみない自分の言動に驚いていたが、すぐにそれが自分の本心だったのかもしれないと思い始めた。私が魔法を解いても、ヨーコは自らの意志で車から遠ざかっていった。熱が覚めてしまえば、捉えどころのない人類の愛なんてこんなもの。うすっぺらくて安っぽいものなのだ。そして二人は別れた。
これで私が消滅させた愛の数はついに九九九になった。あと一つで、私は悪魔の一員として認められる。
『堕天使ルカの福音』
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