堕天使ルカの福音

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         -2-  私は街のビル街の中を飛び回った。そして最後のターゲットを探した。三ツ星レストランでプロポーズしようとしている人もいれば、映画館でじゃれあっている人もいる。カラオケボックスで告白に近い愛の歌を歌っている人もいた。でも私は最後はやはり私のお気に入りの場所で決めることにした。そこは「恋人の聖地」と呼ばれるこの街の近くの山の上の展望台。私はそこで最も多くの愛を消滅させてきた。  愛の消滅のさせ方は堕天使によって様々。不倫させて家庭を崩壊させる堕天使もいれば、事件や事故を起こさせて無理やり二人を引き裂く堕天使もいる。その方が悪魔への受けはいい。でも、私や多くの堕天使は、そこまでのことはしたくないと考えている。だって、元は天使だったんだから。それで多くの堕天使は、恋愛の邪魔をすることで愛を消滅させている。私みたいにね。 【みーつけた】  私は多くの人で賑わう「恋人の聖地」の展望台の隅に微妙な距離を空けて並んで立つ若い男女二人を見つけた。ノリでラブラブなその場限りのカップルとは違う、本当の愛に発展する二人だ。それは私の勘で分かる。私は愛を消滅させるターゲットをその二人に決めた。  私が二人の背後に降り立とうとしたとき、仲の良い堕天使のエマが私を見つけて飛んできた。私は金髪のロングヘアで、まんま天使って感じだけど、エマは黒髪のショートヘアの似合うかわいい小悪魔って感じだ。 「ルカ、お疲れ~。ルカはもうすぐ千件達成なんだよね! すごいね! ついに悪魔として認められるんだ。悪魔になれば、より強力な魔法が使えるし、翼の色も灰色から漆黒に変わって、かっこいいんだよね!」 「ありがとう、エマ。次で千件目だよ。そして最後のターゲットも決めた。あの二人にね」 「あー・・・。ひょっとして、あのひとたち? あれは止めといたほうがいいよ・・・」   「どうして?」 「私もあの人たちを狙ったことがあるの。お互い大好きなのは分かってる。でも、なかなか愛に発展しないんだよ~。二人は出会ってからもう1年も経つのに手も握らない。どっちもタイミングがつかめなくてコクれないでいるのかもしれない。この調子だと、きっと愛にたどり着く前に自然に別れちゃうよ。だから二人にかまっていたってきっと時間の無駄だだよ」 「私には自信があるんだ。あの二人がもうすぐ付き合うってこと。私の勘って外れたことないからね」 「まあ、優等生のルカが言うんなら私はこれ以上何も言わないけどさ。せいぜいがんばってよ」 「ありがとう」  私はエマと別れてターゲットの二人の背後に降り立ち様子を伺った。ちなみに人類には悪魔や天使、それに堕天使の姿は見えないらしい。らしいというのは、見えてしまうこともあるらしいということ。それがどんな時かははっきりとは分からない。 「ヒロト。とっても綺麗な夜景ね」 「そうだね。ミキ」 「ずっとこうしていたい」 「時間が止まればいいのにね。ずっとこのままで」 「私、何もかも忘れていたい」 「ミキ、僕もだよ・・・」 「この世界は捨てたもんじゃないよね。こんなに安心ていられるなんて。恐る恐る生きている毎日。だけど、それが全てじゃないんだって、私、いつもヒロトといて思うの」 「うん」 「私、ヒロトに会えてよかった」 「僕もミキといられて良かった。たとえ世の中の片隅にいたとしても、ミキといればそれが世界の中心に思えるよ」 【ベタなセリフ。だけどかなりいい雰囲気ね】  もう、二人の愛は成立しているようなものだった。でも魔界には愛の認定に明確な基準がある。どちらかが告白してそれが受け入れられるか、または素敵なキスでもいい。それで愛の成立が認定される。そしてそれからようやく私は二人の愛を消滅させることが出来るのだ。  この時はまだ、私の目に狂いは無いように思えた。  それから一時間、二人は黙って立ったまま手を握ることもなく、距離を詰めることもなくただ夜景を眺めていた。 「帰ろうか」  ヒロトがおもむろに腕時計を見たあと、ミキに言った。 「うん・・・」   【え・・・?! 帰るの?! 手も握らない。寄り添いもしない。肝心の愛の告白もない。あなたたちは一体ここに何しに来たの??】  二人は駐車場に戻り車に乗った。車が走り出し、私は空から車を追った。  そのまま車は走り続け、一軒の家の前で停まった。私は、車のルーフから透過して後部座席に忍び込んだ。  ミキがシートベルトを外した。どうやらここはミキの家の前らしい。二人はしばらくの間、そのまま車の中で黙っていた。ミキは助手席から降りようとせず、ヒロトの言葉を待っているように見えた。10分が過ぎた。ヒロトがミキの方を向いた。ようやくヒロトがミキに告白するのだと思い、私は胸をなでおろした。 「じゃあまたね、ミキ」 【え?】 「あ・・・、うん。じゃあまたね、ヒロト」  そう言ってミキは車から降りた。 【え~っ!? ヒロト、ミキをそのまま帰すつもり!?】  ミキはヒロトに小さく手を振ってから、ゆっくりと家に入っていった。 【お互い好きでいるのをわかっていながら、愛にたどり着く瞬間を何度も見過ごすなんて一体何を考えているの・・・ヒロト】  私は初めて戸惑いを覚えた。           
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