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あれからまた1ヵ月。途方に暮れていた私に朗報が舞い込んだ。ミキがヒロトをデートに誘ったのだ。エマに聞いたら、このパターンは初めてだった。奥手なヒロトにミキが肝を煮やしたのかもしれない。
【やれやれ。でもこれで決まりそうだね】
*
「ヒロト。明日の日曜日、空いてますか?」
「空いてるけど」
「私、どこかに行きたい。ドライブに連れてって」
「いいの?」
「え?」
「僕とでいいの?」
「決まってるじゃない。私はヒロトと行きたい」
「じゃあ」
「ありがとう」
「ドライブコースを考えておくよ」
「うん。あの、私ね・・・」
「何?」
「ううん、何でもない」
*
いつものように広い大地をヒロトの車で走り回り、日が暮れて、ガス灯の灯る港町にたどりついたあと、車から降りて二人は運河沿いの道を歩いた。
運河に架かる橋の上で二人は立ち止まった。レトロなガス灯が二人を淡く照らす。しばらく運河の水面を眺めていたミキがヒロトに言った。
「ヒロト。私ね・・・」
「何?」
「ううん・・・」
「電話で言おうとしていたこと?」
「うん・・・」
「何?」
「私・・・」
ほんの数秒間の沈黙が永遠のように長く感じられた。
「私、ヒロトのこと好きです。私と付き合ってください」
遂にミキがヒロトに告白した。
【やったね!! あとはヒロトがオーケーすればいいだけ。そしてようやく私の出番。千件目の愛を消滅させて、晴れて私は悪魔の一員となるの!】
「ごめん。僕は、君と付き合う自信がないんだ・・・。僕は何も出来ない。僕たちは別れた方がいいと思う」
【えーっ?!! ちょっと待ってよ、ヒロト! 自分で断っちゃうの?!】
なんとヒロトは自らミキとの愛をあきらめようとしていた。このままでは私の出番が無くなってしまう。私が二人に費やした数カ月間の苦労が水の泡と化してしまう。
「そっか。ごめんね。私なんかじゃ、やっぱりダメなんだよね・・・」
ミキの頬に涙が伝った。予想外の展開に私は慌てた。思わず私は悪魔の槍をヒロトに向けた。
【まだ別れるタイミングじゃないでしょ!】
私はヒロトに魔法をかけた。そして言わせた。
「ごめん、冗談だよ。僕はミキのことが大好き。正式に付きあってください」
ミキは驚いて涙をぬぐった。それから笑顔をつくって無言のまま何度も頷いた。その時、私が手にしていた悪魔の槍が、ポンッと消えた。
【あ・・・! しまった・・・!!】
二人は抱きしめ合った。そしてキスをした。
私の体が勝手に天に向かって上昇し始めた。見下ろす二人の姿が小さくなってゆく。
私の異変に気がついたエマが急いで私の元に飛んできた。
【ルカ・・・! 翼が真っ白になってますけど?!】
私は天使に戻っていた。そう。私は二人の愛を消滅させるどころか、うっかり二人の愛の成立の手助けをしてしまったのだ。それは魔界では決して許されない行為だった。私は一瞬にして魔界から追放された。
『堕天使ルカの福音』
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