堕天使ルカの福音

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         -5-  あれからまた1ヵ月。途方に暮れていた私に朗報が舞い込んだ。ミキがヒロトをデートに誘ったのだ。エマに聞いたら、このパターンは初めてだった。奥手なヒロトにミキが肝を煮やしたのかもしれない。 【やれやれ。でもこれで決まりそうだね】           * 「ヒロト。明日の日曜日、空いてますか?」 「空いてるけど」 「私、どこかに行きたい。ドライブに連れてって」 「いいの?」 「え?」 「僕とでいいの?」 「決まってるじゃない。私はヒロトと行きたい」 「じゃあ」 「ありがとう」 「ドライブコースを考えておくよ」 「うん。あの、私ね・・・」 「何?」 「ううん、何でもない」           *  いつものように広い大地をヒロトの車で走り回り、日が暮れて、ガス灯の灯る港町にたどりついたあと、車から降りて二人は運河沿いの道を歩いた。  運河に架かる橋の上で二人は立ち止まった。レトロなガス灯が二人を淡く照らす。しばらく運河の水面を眺めていたミキがヒロトに言った。 「ヒロト。私ね・・・」 「何?」 「ううん・・・」 「電話で言おうとしていたこと?」 「うん・・・」 「何?」 「私・・・」  ほんの数秒間の沈黙が永遠のように長く感じられた。 「私、ヒロトのこと好きです。私と付き合ってください」  遂にミキがヒロトに告白した。 【やったね!! あとはヒロトがオーケーすればいいだけ。そしてようやく私の出番。千件目の愛を消滅させて、晴れて私は悪魔の一員となるの!】 「ごめん。僕は、君と付き合う自信がないんだ・・・。僕は何も出来ない。僕たちは別れた方がいいと思う」 【えーっ?!! ちょっと待ってよ、ヒロト! 自分で断っちゃうの?!】  なんとヒロトは自らミキとの愛をあきらめようとしていた。このままでは私の出番が無くなってしまう。私が二人に費やした数カ月間の苦労が水の泡と化してしまう。 「そっか。ごめんね。私なんかじゃ、やっぱりダメなんだよね・・・」  ミキの頬に涙が伝った。予想外の展開に私は慌てた。思わず私は悪魔の槍をヒロトに向けた。 【まだ別れるタイミングじゃないでしょ!】  私はヒロトに魔法をかけた。そして言わせた。 「ごめん、冗談だよ。僕はミキのことが大好き。正式に付きあってください」  ミキは驚いて涙をぬぐった。それから笑顔をつくって無言のまま何度も頷いた。その時、私が手にしていた悪魔の槍が、ポンッと消えた。 【あ・・・! しまった・・・!!】  二人は抱きしめ合った。そしてキスをした。  私の体が勝手に天に向かって上昇し始めた。見下ろす二人の姿が小さくなってゆく。  私の異変に気がついたエマが急いで私の元に飛んできた。 【ルカ・・・! 翼が真っ白になってますけど?!】  私は天使に戻っていた。そう。私は二人の愛を消滅させるどころか、うっかり二人の愛の成立の手助け(アシスト)をしてしまったのだ。それは魔界では決して許されない行為だった。私は一瞬にして魔界から追放された。      『堕天使ルカの福音』          
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