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-  年上の彼との出会いは、数か月前の台風の夜だった。当初予想されていたよりも数倍大きく育った台風は、首都圏に直撃して交通ダイヤを大幅に狂わせていた。  どんな大雨でも会社を休むことのできないサラリーマンで、街はごった返していた。ターミナル駅から数駅隣の駅の近くに住んでいた俺は、小さな隠れ家のような、酒と食事を提供するカフェバーで時間を潰していた。大学は休講になったから帰ろうと思ったら、バイト先から台風で代打のヘルプを急遽頼まれてしまったからだ。  突然決まったナイトシフトまでのんびりしようと喫茶店とバーの間のような店のカウンターでただぼんやりしていた時だった。  カランと軽い音を扉に付けられたベルが鳴らし、店内に重たい靴音がした。そしてそこには、いままで見たことのない種類の雄臭い男前が立っていた。  仕立ての良いスーツに包まれた広い背中に分厚い体。背が高くて厳つく怖そうな顔なのに、瞳は理知的で大人の余裕を感じさせている。  そんな大人の男は今までに自分の周りにはいなかった。だから、狭い店内に入ってきた彼を、俺は不躾にも惚けたように見つめてしまった。  精悍な顔から傘を持っていても防げなかったのであろう雨の雫が伝い堕ちる。  それを見て思わず、よければ、とハンカチを差し出したのがきっかけだ。  店にはおしぼりもあるし、いらないと突っぱねられるかと思ったら……一瞬、目を驚きに開いた彼は優しく笑うと俺のハンカチを受け取った。  それから隣の席になって、ハンカチを洗って返すからまた来週この店で、となぜか自然にそうなっていた。また次の週に会うと、ハンカチを返すだけかと思ったら話が弾み、また次の約束までしてしまっていた。そしていつの間にかお互い約束せずに週末に店で会うようになっていた。 『ごめんね。こんなに年上の男の話なんて、つまらないだろう?』  よく彼は謙遜してそう言ったけれど、知識も経験も豊富な彼の話はいつも刺激的で面白かった。まだ大学に入ったばかりで社会経験がない俺にとっては、彼の話はまるでお伽噺だ。それでいていつか彼のように広い世界で活躍できたら、と胸を跳ねさせた。  それを素直に彼に伝えると、背が高くがっちりとした強面にも関わらず、恥ずかしそうに照れたりするのだからどこか愛嬌や可愛さすら感じるような人だ。こんな人が結婚もせず恋人もいないなんて世の中おかしいと、俺にはまだ初めての恋人すらいないのに憤りすら感じるほどには彼に懐いてしまっていた。  俺は昔から男にしか興味がなくて、でもそれが一般的じゃないことはよく分かっていた。彼がこちら側の人間じゃないことは一目瞭然で、俺のことを可愛がってはくれているが恋愛感情はないのはすぐに分かった。たまに交錯する視線も触れ合う肩も、どれもが健全な色合いしか持っていなかった。だけどそれでも会いたくて、声が聴きたくて、俺の拙い話を聞いてもらいたくて。  気持ちが育ったら辛いのは俺だと分かっていたけれど、それでも。  そんな彼との出会いから俺は浮かれていた。優しい年上の人に出会って対等に扱われて、自分も少し大人になりしっかりしたような気になっていたのかもしれない。だから・・・頼み込まれてうっかり金を貸したバイト先の同僚からメッセージアプリをブロックされて、俺は途方にくれていた。  『バイト代が入る3日後には絶対に返す』  そう言われて、大学生になりたての俺は彼を信用してしまった。バイト先に行けば必ず会えるのだから。楽天的に思っていた俺は、相当お気楽な子供だったらしい。  連絡もなくバイトのシフトをすっぽかした男は、メッセージアプリも電話も通じなくなっていた。店長に事情を話して履歴書から住所を訪ねてみたが、チャイムを鳴らしたら出てきたのは無関係の人間だった。 「嘘……だろ」  へなへなと近くのビルの非常階段に座り込む。辺りはすでに夕暮れ時だ。  他人にこうまで悪意を持って騙されたのは初めてだ。  短い人生経験しかないのだからしょうがない、と割り切れるほど達観していない。なにしろ貸してしまった金は、明後日には引き落とされる予定の家賃で親の金だ。俺が稼いだ今月のバイト代では、半分程度にしかならない。  正直に親に話して再び振り込んでもらうのが一番正しいとは分かっている。それでもどうにもそれがしたくなくて、何とかならないかと頭を抱えた。大学に行かせてもらって、しかも一人暮らしまでさせてもらって、それで金をだまし取られたなんて。  下手したら家に連れ戻されるかもしれない。最後まで俺を県外の大学に行かせることを渋っていた母の顔を思い出す。鬼の首を取ったように、ほら見たことかと説教されるのが目に見えている。  往生際が悪くなんとかできないかとスマホを弄っていると、ぬっと俺の前に人影が現れた。 「君、何しているのかな?」  スーツを着た中年の男が、俺の顔を上から見下ろしていた。少しだけ『彼』を思い出させるスーツと筋肉質な分厚い体。どこか悪そうな雰囲気の男は、顔を上げた俺を見て顔に笑みを浮かべた。 「出会い系で探してるの? だったら、俺はどうかな?」 「は? いや、俺、ちょっと困ってて、」 「ああ、援助が欲しいんだ? いいよ、これぐらいでどう?」  男から指で指し示された額に、俺はようやく頭が追い付いてきた。  そうだ。ここは男同士で出会う店が集う街の、端のほうなんだ。  勇気がなくて今まで来たこともなかったからすっかり忘れていた。  つまり目の前の男は……俺と同じ、ということで、彼の言う援助とは売春のことなんだろう。 「ダメかな?困ってるんでしょ?」 「あ……、俺、」  畳みかけられるように言葉を重ねられて、彼の手が伸びて俺の腕を引く。そのまま引きずられるようにして道を歩きながら、頭の中で必死にずる賢く計算する。  この男が提示した額をもらえれば、バイト代と合わせれば家賃は払えるだろう。だけど生まれて初めてを、こんなところで名前も知らないような相手としてしまっていいのか。  ……でも、好きな相手にはどうせ抱いてもらえないんだから。  それなら誰が相手でも一緒じゃないか。  心の中の天秤が目の前の男に傾きかけた時。 「おい、ここで何をしているんだ……!」  伸びてきた太い腕に後ろから抱きかかえられた。  そのまま攫われるように連れ去られた先は、彼の自宅だった。驚いたことに最初に出会ったターミナル駅にほど近い高層マンションで、今まで入ったことのない高級そうな部屋に物珍しさもあって辺りを思わず見回してしまう。だがソファに座らされて仁王立ちの彼に睥睨されると、冷たく鋭い視線に視線を床に下げた。 「それで、まさかあの男と付き合ってるわけじゃないよね」  いつもと同じ穏やかな口調なのに、彼から発せられる雰囲気は凍えるように冷たい。 「たまたま、声を掛けられただけです。」 「声を掛けられただけで付いて行くのか?普段からそういうことをしてたの?」 「違います!今日は……その、お、お金に困ってて、それで、」  彼ならば事情を話せば貸してくれるかもしれないと、甘い考えが心の奥にあった。俺は普段は見境なくセックスをするような人間じゃなくて、今回はやむにやまれぬ事情があって。不慣れな街で悪い人間に騙されたと同情してくれるかもと、本当にもしかしたら貸してくれるんじゃないかと、そんな意地汚い心根で呟いた言葉だった。  だけど俺の言葉を聞いた彼はまるで信じられないものを見るかのように目を見開いて。そして酷く困惑したかのように、手を口元を覆うように当てた。 「金、のために?」  そうだけれど事情がある。  騙された情けない事情をどう説明しようかと眉を下げると、彼は大股で俺の目の前まで迫った。大柄な体を見上げると男は俺を睨みつけてくる。  その瞳が、どこか激情を堪えているようで、危うげな雰囲気にぞくりと肌が粟立つ。だがそれ以上に、彼が口にした言葉が俺を混乱の渦に叩き落とした。 「あの男よりも多く出そう。それなら、俺が買ってもいいだろう?」  どういう意味か一瞬理解できなくて、ぽかんと口が開いてしまう。ようやく彼の言葉が脳みそに到達した時、すでに男の掌は俺の肩をソファに押さえつけていた。 「真面目そうに見えたけど、遊ぶ金のため? どれくらいのペースで売ってるんだ?」 「や、っ!」  頬を撫でられて、思わず振り払ってしまう。それに不愉快そうに眉を上げた男は、獰猛な雄の顔をしていた。 「嫌? あの行きずりの男は良くて、俺は好みじゃない?」 「そうじゃ、なくて、」 「ああ、前払いの方がいいのか」  男はおもむろに財布を取り出すと、その分厚い中身を乱暴に押し付けてくる。初めて見たような札の枚数に、俺は思わず受け取ったがどうしていいか分からず、縋るように男を見上げた。 「これで足りないなら、残りは後で払う」 「違う、……違い、ます。いらないから、」 「駄目だよ。逃がさない」  そう言って圧し掛かってきた男の体を、押しのけることはできなかった。  男の愛撫はねちっこく執拗で、今まで自慰の経験しかなかった俺はただ翻弄されるばかりだった。 「ああ、……ここかな?」 「ぃ、あ、あっ!」 「答えて。ここが、いい?」 「いゃ、あ、!や、!」  無理やり引きずり込まれたベッドルームに、俺の泣き声が響いている。でも情けないと思う余裕もないくらいに俺の体は追い詰められていた。  信じられないことに俺の尻の奥には、もう指が三本も入っている。俺が強すぎる快感にやめて欲しいと必死に頭を振っていると、彼はそれを許さないと言わんばかりに、ぐ、と指で内壁を強く押し上げてくる。 「ちゃんと返事しないと……酷くしちゃうよ?」 「ぃ、……いい、っ!いい、から、っぁ!」 「うん、良かった。ここが前立腺だよ。ちゃんと覚えてね。後で俺のでいっぱい突いてあげるから」  長くて太い指に、今まで触れたことなんてあるわけもない場所をトントンと叩かれて、体がびくびく跳ねて止まらない。ついさっきまで慎ましく閉じていたはずの窄まりは、今は多量のローションでぐちゃぐちゃに濡れて卑猥な音を上げていた。  今まで意識していなかった胸の突起も、彼に撫でられ摘ままれ、ぷっくりと膨れ上がっている。時折り悪戯のように舐められ、舌先でぬるぬると弄ばれて泣くような悲鳴を零した。 「ああ、まだイっちゃだめだよ。もうさっきから2回もイってるんだから、我慢してね」 「……っ、むり、ぃ!」  後孔の指をぐちぐちと前後に揺すられて、気持ちのいいところばかりを狙って弄られて我慢なんてできるわけない。 ベッドの上で背筋を反らせて痙攣すると、彼は俺の中をまさぐっていた指を引き抜き、俺のペニスをぎゅっと握りこんだ。 「っひぃ!」 「こんなイきやすい初心な体で、よくウリなんてしてたね。本当に腹が立つ」  彼は俺の性器の根本を握ったまま、もう一方の手でやや乱暴に擦り上げる。痛いくらいの刺激だけど、すっかりとろとろになるまで蕩かされた俺の体はそれすらも快感として拾い上げて、性器は涎を垂らして喜んだ。 「ん?これも気持ちいい?」  俺の反応を彼は目ざとく見つけて、痛いと気持ちいいの間位の刺激で俺を弄ぶ。叫び声のような声を上げて喘いでいると、彼は俺の太ももを大きく割り開いて、酷く人の悪い顔で笑った。 「最初だから、あんまり苛めたくなかったんだけど……君が悪いんだから、しょうがないよね?」  俺の屹立にゴムのような伸縮性のある輪が付けられて、締め付けられて違和感を感じる。だけどそれが気にならないくらいに、目に飛び込んできたものに俺は目を見開いた。  脚の間に触れる、熱い塊。俺のものと違って長大なそれ。  ……あんなのは入らない。  溶けていた頭でも分かる恐怖に、逃げ出そうとした腰を強く掴まれて。決して乱暴ではないのに絶対に逃がす気なんてないと分かる強引さで、ゆっくりと深く奥まで突き入れられた。 「ひぎっ、ぃ!!!」 「あー、あれだけ慣らしたのにキツいな……」 「ぃあ゛、! あ゛あ゛、あ!」 「痛い?」 「痛くは、ないけ、ど、あ! やぁ!」   ずぶずぶと奥まで長大なものが入ってくる。痛くはないけどきつくて苦しい。ずるずると内側を擦られる感覚に頭がおかしくなりそうだ。はーはーと必死に息をしている俺に、彼はどこかゾクリとする笑顔で微笑んだ。 「良かった。じゃあ、ゆっくり楽しもうか」  ゆっくりと彼が腰を揺する。その刺激で、俺の体は憐れなほどに飛び跳ねた。  
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