千利休

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千利休

 怒り心頭の利久はいつもの散歩コースである禅寺にプンプン向かう。境内に入ると見慣れた山門が見えてきた。晴れた日、夕暮れ時には朱塗り色が夕日に鮮やかに映える。でも今日の利久には憤怒のレッド。  利久の上司である豊川秀康は企画部長。バブルとリーマンショックを体験した海千山千のたたき上げ。若手時代から仕事もでき、目配り気配りの人だった。  例えば、冬のゴルフで上司にお供の際、同乗した車中で上役のゴルフシューズを『使い捨てカイロ』で温めたという、嘘かホントかわからないエピソードの持ち主。ただ、美的センスは今ひとつ。太鼓腹を覆うスーツは胸周りと腰回りに差がないE体型、ネクタイはいつも派手な柄物だ。  山門を見上げ悔しさをかみしめる利久。 「なぜだ!どうして俺のチームのセンスがわからない⁉」  チームAの企画は、これまでのように製品スペックを声高に訴求するプロモーションでなく、日本の伝統的モノづくりをもとに製品の実効性が腹落ちすることを狙っていた。 「そう言えば、この山門は茶道で『わび』を極めた千利休が建造をサポート。その感謝のしるしに住職が上層に利休の木像を置いたよな。けど、それが秀吉の怒りを買い利休は切腹。理由は秀吉が門を通るとき、利休の木像が自分を踏みつけるだと。オイオイこれって、まるで揚げ足取り。普段から利休のセンスを妬んだ秀吉の言いがかりか!?利休、悔しかっただろうな。うん、今日の俺は御前の気持がよくわかる!」
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