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石田三成
山門を見て利休に感情移入した利久は己の正当性に自信を深める。境内をどんどん歩きながら会議を振り返る。
「『製品が確実に売れる案を示せ』だと。ふん、そんなもんあれば苦労しない。それに他の連中もなんなんだ!最初は黙ってたのに部長が批判を始めたら俺も俺もと次から次へと重箱の隅をほじくるような事言い出して。そんな事でしかプレゼンス発揮できないのか。情けない!特に小林英明はいかん!俺のチームなのに部長から『この案、地味だよね』同調求められ即座に『そうですね』だと、信じられん‼」
怒りは収まるどころかますますエスカレートする始末。
いつもの利久なら歩道右手の天然記念物、樹齢約三百五十年のイブキの大木に歩み寄り、その生命力に畏怖の念を抱く。だが、まだ熱い頭がその余裕を生ませない。歩道をまっすぐ進むと、普段は気にも留めない塔頭の『拝観謝絶』の立て札が己を拒絶するようで目に痛い。手前の古びた石碑に気が付いた利久は思わず足を止め、刻んだ文字を確認する。
『石田三成公御墓地』
「なるほど。この塔頭は石田三成の墓かぁ。天下分け目の一戦、関ケ原の戦いで西軍大将。でも東軍の家康に負けたよな。そう言えば西軍なのに、戦場で突然寝返った武将がいたな。確かえーっと、こば、こば、こば・・・
『小早川秀秋‼』
そっかぁ。三成、悔しかっただろうな。うん、今の俺は、お前の気持ち痛いほどよくわかる!」
心の中で三成と気持ちを分かち合った利久であったが「ところで石田三成の最後はどうなった?」妙に気になりスマホで検索。
『家康の命により六条河原で斬首』
思わず固まる伊志田利久。
「コンペに負けたら俺は・・・ まあ、ないか」
だが、怒りに得体のしれない焦燥感がじわっと忍び寄る。
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