織田信長

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織田信長

 ストレートな怒りが変化球に変わったものの利久の心はまだまだ落ち着かない。再び石畳をスタスタ歩きだす。歩道に沿って本坊手前で左に折れる。右手に立派な鐘楼が見えてきた。 「あの鐘、おもいっきり鳴らせたらこのモヤモヤの怒り、静まるかなぁ」  目を落とせば『信長公廟所』と石碑にくっきり。 「この塔頭は織田信長の墓かぁ。そう言えば小田部長どうしてるかなぁ?」  前部長の小田信夫は自動車事故で瀕死の重傷を負い入院中であった。一命をとりとめたが社会復帰は難しい状況にある。   あれはコロナ禍が始まる三年前、恒例のユーザー訪問の時だった。  今後の製品開発と若手育成を兼ね幹部と若手がペアで顧客現場を取材する企画部の重要タスク。あの時の幹部は当時部長の小田、若手が阿久津光英だった。  阿久津が運転する車に乗り顧客の工場へ向かう時、高速道で居眠り運転のトラックに追突された。後部座席の小田はシートベルトを締めておらず激しく突き飛ばされ頭をフロントガラスにぶつけ意識不明。検査の結果、脳挫傷が判明し寝たきりの状態に。運転手の阿久津はエアバックとシートベルトに助けられ軽症であった。  この件で四国に出張中にもかかわらずいち早く現場に駆けつけ事後処理を行ったのが現部長の豊川秀康。  事故現場は『天王山トンネル』  阿久津は企画部を外れた。
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