1章 第1話 誰か助けて!

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1章 第1話 誰か助けて!

1章 時を越えて —太陽の国レオ 王レオ— 「レイフュ様、いや、実はね。変な噂を聞きましてね.. いや、これはあくまでも空耳のごとくの噂なのですがね。 本当に今いる者だけで全員なのでしょうね?」 「言いたいことがあるならはっきりと申せ」 「いやね、私も親の身、こんなことはしたくはないのですよ。ですがね、どうもねぇ.. ここ太陽の国レオの民の多くは、遥か昔、あの方が生まれたティラー村の民の血を引くと聞いています。その国の王都内で暗欄眼の子供がひとりもいないなど.. いやね、それならそうなんだと納得してもいいのですが、上層部の方々が納得するかが問題でしてね」 「ブルゲンよ、それはこの太陽の国の女王レイフュが嘘を申しているというのか?この国の歴史は言われるまでもない。だがな、ティラー村などもう何千年も昔の話ではないか。そんな民の血など、もはや海に落とす一滴のごとくだ。それにその血が残るなどこの王国レオに限ったことではなかろうが!」 「はっ、おっしゃる通りで。ですからね、もう南方のラッサ村では2人見つけましてね。もうすでに処理いたしました。ああ、それと逃がそうとした者も今頃、猛獣トリュテスクローの腹の中でしょうな。しかし馬鹿な者どもです。処理といっても暗欄眼の目をスッとするだけなのに」 そう言いながらブルゲンは自分の瞼に指をなぞった。 それを見たレイフュは目を下に伏せた。 「ブルゲンよ、お前は親の身と言ったな。ならば、それがお前の子のことであればどう思うのだ?」 「はっはっはっは。私は北方の王国シェクタ出身。万が一にもありませんが、まぁ、暗欄眼は片目にしか現れません。ですので、片目を失っても片方が残ります。それよりも親無しにするほうが不幸でしょ」 「親といえば、父親が死んでも母親が生きているぞ」 レイフュは蔑む目で言った。 「はっは!これは一本取られましたな」 「もうよい、私は気分がすぐれぬ。さがってくれぬか?」 「はぁ。わかりました。ただ、白亜部隊を使いましてもう一度、王都内を調べさせていただきます」 「勝手にしろ。ただし王都の民を傷つけることは許さぬぞ」 「はっ、心得ております」 そう言うとブルゲンはいやらしい笑みを浮かべながら玉座の間から立ち去った。 レイフュは玉座から立ち上がり、窓辺に近づき空を見上げながら祈った。 「子供たちをお守りください。そして我が子ファシオも」 *** —王都レオから遠く東の海岸近く、牛舎の片隅で牛の声に混じって会話が聞こえた。 「もうすぐ日が暮れる。そろそろ出発するぞ」 「わかりました。あとは我々が連れていきます。何、ギプスの船まではもうすぐです」 「そうはいかない。ギプスの船に乗るのにこのレオ国の王子ファシオの名が必要だろ。今まで王家が嫌で放浪していたが、この名が役立つのなら俺はお前たちと一緒に行くぞ」 「わかりました。せめてヒューの背に乗れれば海岸まですぐに辿り着くことができるのに..」 [ —ガガンッ ] その時、牛舎の外で物音がした。4人の子供はその音に身を硬直させた。そして幼い3歳の子供がお漏らしをして泣き始めた。 「静かに。大丈夫だ。きっと狸か何かだ」 [ おいっ、そっちに行って周れ。お前は別動隊に知らせてこい ] ガサガサと複数の男たちの草を踏む音が聞こえる。 「ファシオ様、どうやら囲まれてしまったようです」 「うむ」 そう返事をするとファシオは子供たちを抱き寄せた。 「まずは我ら2人が切り込み、時間を稼ぎます。ファシオ様は裏手から子供を連れてお逃げください。合図と同時に.. 」 「わかった。すまぬ。俺の計画が悪かったのだ」 「私は王子の責務を果たさないあなたが嫌いでした。ですが、今はあなたが好きです。だから気にしないでください。行きますよ.. 3,2,1」 女王直属の部隊ラジスの精鋭2人は勢いよく正面のドアをけ破り表に出た。彼らは2人とはいえ女王の命を守るラジス部隊の精鋭だ。そして彼らは灼熱の炎を纏わせる魔法剣の使い手でもある。もしも相手がその剣に傷つけられたならば体の内側より焼き尽くされるという恐ろしい魔法剣術だ。 ブルゲンの連れてきた白亜部隊は5人。倒せない数ではない。 「我らの奥義を受けてみるがいい」 [ —ラル・ハリュフレシオー ] 2人は詠唱を唱える。 白亜部隊は一瞬たじろいだ。この炎が相手を焼き尽くすまで消えないのを知っているからだ。 「やれやれ、お前らやっぱり僕がいないとダメだな」 どこからともなく長身の男がでてきた。 風が男のダボ着いた服を揺らしバサバサとした音を立てる。 「誰だ? 何処から出てきた?」 「ああ、さっきからそこにいたよ。暗がりだから見えなかったのだろ?」 いや、それは明らかに嘘だ。なぜなら風はさっきから強かった。だが服の音がしたのは男が話し始めてからだ。 「ああ、それと名前だったね。ダル。僕の名はダル・ボシュン」 この戦闘に無防備で、しかもその脆弱な体つき、しかしそのどこか異様な雰囲気に身震いがする。だがラジス2人は思った。 『時間は十分に稼げた』 2人が剣を構え突撃しようとした瞬間、ダルの右腕がぼんやりと白く光ったように見えた。そしてこう言ったのだ。 「僕はこんなひ弱な炎を認めない」 するとラジス2人の剣の炎が霧のように消えていった。 「ほら、白亜部隊、殺せ」 ラジス2人はそれでも白亜部隊3人を葬り、自らの目を閉じて逝った。その先に見える拘束されたファシオと子供たちに向かって謝りながら。 ・・・・・・ ・・ 「おのれ!! 」 腕をねじ上げられ身動きが取れないファシオが叫ぶ。 「逃げられるわけないでしょ、僕らから。君は..そうだな。連れて帰るのも面倒だからここで死んでもらって—」 そう言いかけると白亜部隊のひとりが耳元に近づく。 「..え~。君は王子なのか。ならば、すぐに殺すわけにはいかないね。じゃ、ここで見ていてよ」 ファシオはこれから自分が何を見せられるのかわかった。 「ま、待て。待ってくれ、お願いだ」 「ダメ」 ダル・ボシュンが顎をしゃくると、白亜部隊が泣きじゃくる子供の髪を掴み、ファシオの目の前に連れて来る。その子はさっきのお漏らしをしてしまった幼子だ。 「や、やめてくれ」 ファシオはもはや力が入らない声で懇願する。幼子の泣き声が闇につんざく。ダルは長い指で耳栓をする。 白亜部隊の鋭い剣先が幼子の瞳の前にかざされた。 「だ、誰か、助けて.. 助けてくれぇ」 月の光、一瞬反射する一筋の月光、そして白亜部隊の剣が空高く舞う。 「だ、誰.. 」 ダルが言う間もなくその癖の悪い足がマッシュルームのような頭を蹴り上げた。さらにはその高速の脚の連続技でその場にいる8人の白亜部隊が手も出せぬまま10m以上吹き飛ばされる。 「お前の部隊は全滅だ。渾身の力を込めて蹴り上げたからな。もはや二度と立てはしない」 鼻血を手でぬぐいながらダルは辛うじて立ち上がった。 「ば、馬鹿な。一瞬で僕の部隊を。有りえない。も、もしかしてお前、そのカポエイラのような.. そうか、お前は時の従者か? ならば僕の敵じゃないぞ! 」 「カポエイラ? 何だそれは? 」 ダルは人の話も聞かずにこう叫んだ。 『お前らトパーズを認めない ぶへぇっ!! 』 さらに腹に足蹴りを浴びせられたダルは真っ青になり涙声で言う。 「馬鹿な。お前がシエラなら力が失われるはずだぁ.. 」 「お前、何を勘違いしている。あの方の技はこんなものではない。私はあの方に追いつくために技を磨いてきただけだ」 「なら、お前は誰だというのだ! 」 ダルの服とその男のズボンがバサバサとより大きな音を立てた。 「ガゼ、 私の名は『刻の社』元警備隊長のガゼだ! 」 「ク、クソ。ガゼ。覚えたからな。僕は覚えたぞ」 そういうとダル・ボシュンは闇夜に空いた亜空間に姿を消した。 ファシオは月夜に浮かぶ杖を持つ男の顔を見ると気を失ってしまった。
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