5 S

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 いつものように羽村が昇降口の方向を指差して「待ってて」って合図をくれる。オレはそれに、うん、て頷いて応えた。  百瀬さんと「またね」って言い合って、体育館を出たらめっちゃ寒かった。体育館も寒いけど、結構人が集まってて、しかもワイワイ盛り上がってたから室温上がってたのかもしれないな。  カバンからマフラーを出して巻いて、羽村のコートのフードも被って、今日は昇降口で立って待ってる。いつもは傘立てに座るけど、羽村のコートを着てるからなんとなく立っていた。 「お待たせ、佐伯。寒かっただろ、つか立って待ってたの?」 「あ、うん、なんとなく?」 「俺のコートのことは気にせず座って全然いいからな。見てる間もずっと立ってるから疲れるだろ?」  靴を履き替えながらそう言った羽村が、オレの前まで来て心配気な顔をした。 「手摺りにもたれてるから割と平気だよ?」  フードを外して羽村のコートを脱ぐと、あったかい空気が一気に逃げて行った。  …でも。 「なんか、もしかして余計寒い?このタイミングで脱ぐのキツいよな。いっそ着て帰る?」  羽村がコートを受け取りながら申し訳なさそうな顔をした。 「ううん、平気平気。おかげで体育館で寒くなかったし。だからさ、羽村コート着て」  早く着て それから…  羽村がカバンを傘立ての上に置いてコートに袖を通した。そして再びカバンを持ったところにオレは一歩近付いた。  羽村がオレを見下ろす。オレは目線だけ上げて羽村を見た。  アーモンド型の羽村の目がスッと細められて、長い腕がオレの方に伸びてくる。  何度味わってもこの瞬間はほんとに幸せ  羽村の大きな手がオレの肩にのって、そしてぐいっと抱き寄せられる。  一気に体温が上がっていくから、コートがなくても大丈夫なんじゃないかと思うぐらい。 「帰ろっか、佐伯」  オレを覗き込むように羽村が言う。 「うん」  えへへって思いながら応えたら、羽村はうん、うんて頷きながら歩き始めた。  蛍光灯の点いてる昇降口から、外灯の照らす薄暗い外に出る。12月に入って、17時すぎでももう結構暗くなっていた。  暗いから、大丈夫。  羽村の腰に腕を回してコートを掴んで、ぴたっとくっついて歩く。 「なあ佐伯。…明後日の日曜ってなんか予定入ってる?」 「え?ないよ?」  羽村の腕が更にぎゅっとオレを抱き寄せた。 「デート、しない?」 「えっえっえっ、する…っ」  するするする…っ  羽村のコートをぎゅうっと握り締めて見上げたら、ちょっと驚いた顔の羽村が街灯の白い光に浮かんで見えた。 「…マジでやばいくらい可愛いな、佐伯」  羽村がオレの頭にコツンと頭を当てて、そしてすりすりと擦り寄せた。 「可愛い可愛い、めっちゃ可愛い。な、佐伯、行きたいとこある?思いつかなかったらモールとかでいい?」 「あ…うん。羽村とならどこでも…」 「マジで?」  街灯と街灯の間の、闇の深いタイミング。羽村の唇がオレの頬に触れた。 「…まじで…」  やばい…
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