57 S

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「あー、確かに。佐伯も『田辺事件』で助けてもらったもんな、羽村に」 「え、あ、あ、うん」  やばい、たぶん不自然なくらいにやにやしてた。 「なになに?『田辺事件』?」  井澤先輩が興味津々な様子で訊いてくる。 「おれらと同中のやつが、女呼ぶのに佐伯を使おうとしたのを、羽村が怒って止めさせたんす。めっちゃ怖かったっすよー、羽村」 「へー、なるほど。そんなことがねぇ」    そんな話をしているうちに体育館に着いた。入口のあたりにいた匡也がオレたちに気付いた。 「正義感強いからなぁ、羽村は」  そう言った井澤先輩がオレの肩に腕を回して、ぐいっと引き寄せる。 「な?佐伯くん」  斜めになった視界で、匡也の眉間に思いっきり皺が寄ったのが見えた。 「やっぱかわい」  そう呟いた井澤先輩は、オレの頭をわしゃわしゃ撫でた。  匡也が速足でこっちに向かってきてる。 「おー、羽村。全員集まってる?」 「…集まってます。後は部長だけです」  井澤先輩を睨みつけながら匡也が応えて、そしてオレの腕を引いて井澤先輩から引き離した。 「コート、なくても平気?いるなら取ってくるけど」  まだ眉間に皺を寄せたまま、匡也が訊いてくる。 「あ、うん。だいじょぶ。もう始まってんでしょ?部活」  髪を直してくれた匡也にそう応えると、匡也は「分かった」って言って、井澤先輩の後に付いて戻って行った。 「おーっし。羽村がしごかれるとこ見るぞー」 「言い方ひでー」  中島と三田がキャットウォークに向けてはしごを登っていく。オレも2人に続いて登った。  キャットウォークはもういっぱいで、でもいつもの場所で百瀬さんが手を振って「おいでおいで」ってしてくれた。 「3人はちょっとキツい?」 「だいじょぶ、だいじょぶ。ほら佐伯くん、ここ」    みんながちょっとずつ譲ってくれて、オレはいつも通り手すりに手をかけて下を覗いた。中島たちは後ろから覗いてる。 「おー。羽村、今日もカッケーなあ」  中島の声にうん、うんて頷きながら、走る匡也を見つめた。  …井澤先輩、ぜんっぜん普通だったなぁ…。  あのファストフード店での表情はなんだったんだろ。  ていうか25日…。  学校では考えないようにしてたのに。  さっきからずぅっとドキドキしてる。  こうやって匡也を見てたら余計ドキドキしちゃう  でも見たい  しばらくしたら、中島と三田は帰って行った。  オレはいつも通り、最後まで匡也を見ていた。 「お待たせ」  って昇降口にやって来た匡也は、もうコートを着てて、だからオレは靴を履き替えてる匡也の横にぴたっとくっついた。  そして匡也をちらっと見上げたら、匡也はくすっと笑いながらオレの肩を抱いた。  …1日、経った…  25日に、1日近付いた…  匡也のコートをぎゅうっと握って、匡也の腰に回した腕に力を込めると匡也もオレを抱き寄せてくれる。 「…なんかすっごいさ、緊張してる。昨日から」  そう言った匡也が、笑ってるような、ため息みたいな吐息を漏らした。 「…オレも…」  ドキドキして、ふわふわしてる
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