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58 S
駅までの道をゆっくり歩いてる。
ゆっくり歩いても20分。
「しかもやたら腹減った。ごめんちょっと止まって」
自販機の前で匡也が足を止めたから、オレも止まる。
匡也はコーンスープのボタンを押した。
「詩音、一緒にしゃがんで?」
甘えるように言った匡也が覗き込んでくる。
「いいよ?」
取出し口から缶を取る少しの間も離れたくないって、思ってくれてるんだよね?
匡也が缶を取り出すのに合わせてしゃがんだ。匡也は缶を開ける時もオレに腕を回したまんまだったから、カコッていう缶を開ける音が間近で聞こえた。
ぐいっと一口飲んだ後「飲む?」って訊かれたから「うん」って応えた。
「まだ缶が熱いから気を付けろよ」
「うん。あ、ほんと熱い」
あち、あちって思いながら一口もらって、缶を匡也に返したら匡也は普通に持ってた。
「熱くないの?」
「これぐらいなら平気。熱いなとは思うけど」
「ふーん」
また一つ知った匡也のこと
どんな些細なことでも知りたい
オレが1番匡也のこと知ってるってマウント取りたい
「明日三者面談だなー。面倒くせ」
「ねー。期末ちょいやばだったし」
「そうなんだよなー。赤点じゃなかったから許してほしい」
「ほんとそれ」
だって、テストどころじゃなかった
人生の一大事だった
…そしてもっかい
人生の一大事がやってくる
「面談、オレの次の次だっけ?匡也」
「うん、そう。忘れずに部活抜けてこねぇと」
そんな話をしている間に駅に着いた。
ずっと一緒にいたいのに、夜はお別れ。
『会えない日が続くって、どうなんだろうな』
冬休みはたぶん、毎日は会えない。
匡也は部活があるし、家の用事とかもある。
何回会えるかな。
付き合い始めて、会えない日が2日続いたことはない。
みんなどうやって乗り越えてんのかなぁ
匡也の乗ってる電車が小さくなっていくのを見送りながら思った。
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