58 S

1/1
前へ
/78ページ
次へ

58 S

 駅までの道をゆっくり歩いてる。  ゆっくり歩いても20分。 「しかもやたら腹減った。ごめんちょっと止まって」  自販機の前で匡也が足を止めたから、オレも止まる。  匡也はコーンスープのボタンを押した。 「詩音、一緒にしゃがんで?」  甘えるように言った匡也が覗き込んでくる。 「いいよ?」  取出し口から缶を取る少しの間も離れたくないって、思ってくれてるんだよね?  匡也が缶を取り出すのに合わせてしゃがんだ。匡也は缶を開ける時もオレに腕を回したまんまだったから、カコッていう缶を開ける音が間近で聞こえた。  ぐいっと一口飲んだ後「飲む?」って訊かれたから「うん」って応えた。 「まだ缶が熱いから気を付けろよ」 「うん。あ、ほんと熱い」  あち、あちって思いながら一口もらって、缶を匡也に返したら匡也は普通に持ってた。 「熱くないの?」 「これぐらいなら平気。熱いなとは思うけど」 「ふーん」  また一つ知った匡也のこと  どんな些細なことでも知りたい  オレが1番匡也のこと知ってるってマウント取りたい 「明日三者面談だなー。面倒くせ」 「ねー。期末ちょいやばだったし」 「そうなんだよなー。赤点じゃなかったから許してほしい」 「ほんとそれ」  だって、テストどころじゃなかった  人生の一大事だった  …そしてもっかい  人生の一大事がやってくる 「面談、オレの次の次だっけ?匡也」 「うん、そう。忘れずに部活抜けてこねぇと」  そんな話をしている間に駅に着いた。  ずっと一緒にいたいのに、夜はお別れ。 『会えない日が続くって、どうなんだろうな』  冬休みはたぶん、毎日は会えない。  匡也は部活があるし、家の用事とかもある。  何回会えるかな。  付き合い始めて、会えない日が2日続いたことはない。  みんなどうやって乗り越えてんのかなぁ  匡也の乗ってる電車が小さくなっていくのを見送りながら思った。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加