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59 S
「詩音、今日三者面談の後、一緒に帰ってきてね」
「え?なんで?」
朝食のトーストを持つ手を止めて、母に訊き返した。
「夕方のタイムセールでトイレットペーパーが安いから、荷物持ち兼頭数」
「あー…、はい…」
ウインナーをフォークで突き刺しながら不承不承返事をした。
「あら、ぶすっとしちゃって。たまにはお母さんに付き合ってちょうだい」
「ね?」って言われて、もう一回「はい」って応えた。
負い目っていうとあれだけど、隠し事をしてるから母の頼みを断れなかった。
休み時間にトイレから戻ったら、匡也の机に中島が腰掛けて喋ってた。匡也の隣の席の椅子に座ってるあの後ろ姿は三田だ。匡也は椅子を引いて、三田の方に向いて斜めに座ってる。
どうしようかなって思ったけど、匡也の片膝に座った。
だって後ろから抱きつくには回り込まなきゃいけないし。
今日は一緒に帰れないから、今のうちに匡也をチャージしとかなきゃ。
「佐伯がバスケ部の期待の星を椅子扱いしてるぞ」
「今更今更」
中島と三田が笑いながら言ってるから、だから大丈夫。
「中島はもう三者面談終わったんだよな?」
匡也の声がすぐ近くから聞こえて、ちょっとドキドキした。
「終わった終わった。授業態度とか、進路とか?あと、もちょっと早く来いとか」
「遅刻ギリギリ多いもんな、中島」
「ギリギリでも間に合ってればよくね?」
「まーなぁ」
「オレ、今日面談の後、親と帰んないといけないんだよねー…」
「なんで?」
三田がオレを見上げて訊いた。
「タイムセールの頭数と荷物持ち」
「あー、おひとり様一個まで」
「そうそれ」
「ならしゃーねぇなぁ」
そうなんだけどさ
「佐伯、もちょっと深く座ってくれた方が俺がラク」
「え?」
匡也がオレの腰に片腕を回して引き寄せた。そして腕はそのまま。
完全に、お膝に抱っこになっちゃった。
「しょーがねぇなぁ。じゃあ今日はおれが佐伯の代わりに見に行ってやろうか?」
中島がにやりと笑いながら言う。
「いや、いらねぇし」
ぴったりくっついたから、匡也の声の響きが身体に伝わってくる。
「今日も見たかったなぁ、バスケ」
っていうかバスケしてる匡也を。
匡也がオレに回してる手で、ポンポンと腰の辺りを優しく叩いた。
分かったよって、たぶん言ってる。
チャイムが鳴っちゃって自分の席に戻って、そういえばって思った。
このまま土日、会えないんじゃん…っ
初めての2日連続会えない日…
思わず大きなため息が出てしまって、隣の席の清水さんに心配気な顔をされてしまった。
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