6 S

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 キス、したくなっちゃった…  でも…、そんなこと言えない…  ゆっくり歩いたって学校から駅までは20分。駅が近付くにつれ、街灯の間隔は狭くなり、周りは明るくなる。そして人も増えてくる。  …だからキスはできない。 「じゃあ佐伯、日曜は俺とデート、な?」  耳元で甘く囁く羽村の低い声にドキドキする。うん、て頷いてそれから「あ」って思った。 「ね、ね、羽村。オレ顔赤くない?平気?」  掴んでいる羽村のコートをくいくい引っ張りながら訊いた。 「ん?んー、ちょっと、…かな?でもかわいーから全然平気」  そんなことを言って、羽村がくすっと笑った。 「そうじゃなくてっ」 「ごめんごめん。でもほら、寒いからかなって思うぐらいだし大丈夫だよ」 「…うん」  とうとう駅に着いちゃって、改札を通らなきゃいけないから羽村がオレから手を離した。途端に寒くなる。大急ぎで改札を抜けて羽村の元に駆け寄ると、また肩を抱いてくれた。  夕方の駅は混んでて、肩を組んで階段を昇ると危ないからって羽村が腕を降ろしたから、ぴったり隣を歩いてるだけのふりをして、こっそり羽村のコートを握って階段を昇った。  目の前を昇っていく男女のカップルは手を繋いでて、羨ましかった。 「明日は丸一日部活なんだよなあ。休みはギャラリーがいないから、静かでちょっと淋しいくらいだぞ」 「そっかー。入れたらさ、見に行きたいけど」  うちの高校は、休みの日は部活とかちゃんと用事のある人しか校内には入れないっていう決まりになってる。朝練の時間も同じ。…だから。 「…来週から、朝会えないね」  羽村、朝練始まっちゃうから。 「ん、そうだな…」  バスケやってるカッコいい羽村が見られる代わりに、朝の電車で羽村には会えない。  両方ほしい…毎日  ホームに滑り込んできた電車にはたくさんの人が乗ってて、ラッシュだなあって感じになってた。以前なら、やだなって思ってた。  降りる人を待って、人々が列になって乗り込んでいく。羽村の広い背中にくっついて前に進む。いっそコートをしっかり握ってしまいたい。  混んでるし分かんない、ていうか誰も見てない、よね?  そう思って、羽村のコートをこっそり掴んで電車に乗り込んだ。混んでるから吊革のない所にきちゃったけど大丈夫。羽村は背が高いから高い位置の手摺りに手が届く。大きな手で手摺りをしっかり握ったら、羽村がオレに手を伸ばしてくれるから、オレはその手に身を委ねた。  あー…幸せ  いつものことだけど3駅なんてあっという間で、オレん家の最寄駅で一緒にホームまで降りた羽村が「電話するから」って言って手を振って、再び電車に乗り込んでいくのも、その電車のドアが閉まって動き始めるのも、走り去って見えなくなっていくのも、オレはホームからずっと見ていた。  もっと一緒にいたかったな  明日は会えないし…  でも日曜はデートだ!  ちょっと気持ちのアップダウンが激しすぎてクラクラした。  ホームを冷たい風が吹き抜けて、羽村にもらった体温が奪われていく。  土曜日、早送りできたらいいのに。  羽村に会えない休みの日なんかいらねーのにな。  割と本気でそう思ってる。  セキュリティとかうるさいこと言わないで、休みの日も見学に行けたらいいのに。朝だって、入れてもらえるなら毎日早起きしたっていいのに。  なんで学校って謎ルールがいっぱいあるんだろ。  オレはただ、ちょっとでも長く羽村といたいだけなのに。
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