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61 Kyoya
月曜の放課後、体育館に向かう詩音の顔には緊張と不安の色が浮かんでいた。
「大丈夫だよ」って言いながら俺のコートを着せ掛けてやったら、自分を守るようにその襟元を両手でぎゅっと握って「うん」って言って頷いた。
しばらくはそのまま、恐々って感じで俺を見てたけど、いつも詩音の隣にいる、ずっと前から見に来てる女子と話し始めたら段々表情が明るくなってきた。
よかった…
何の話してんのかな?
「お、佐伯くんが浮気してる」
井澤部長がにやにやしながらそんなことをボソッと言ってくる。
「してません」
軽く睨んで、こっちもボソッと返す。
「なんだよ、自信満々だなぁ」
ムカつくーとか言いやがるけど、ムカついてんのはこっちだっつーの。
この人みたいに強くはなりたいけど、この人みたいにはなりたくない。
いつも、わざと俺の神経を逆撫でしてくる。
でも、助けてもくれる。
わけ分かんねぇ、この人。
…って、思ってた。
いい加減ネタ切れで、でも少しはデートっぽくってことで、知らない駅で降りてみた。
場所は、どこでもいい。詩音がいれば。
今日のミッションは、詩音をうちに誘うこと。
…25日に。
家族の予定をきっちり確認して、「よし!」と思ってからずっとドキドキしっぱなしだ。
ファストフード店で向かい合わせに座って、どう切り出せばいいかと頭を捻りつつ「こいつ今日も可愛いなぁ」って思った時、詩音の向こう側を見知った顔が通った。
「たぶん小野先輩の…、生徒会長の彼女」
俺がそう言ったら、詩音が不思議そうな顔をした。
そっか、会長が俺と同中だったの知らないんだっけ。
そういえば会長と彼女が付き合い始めたのってクリスマスごろだったな。なんか学校中が盛り上がってた、あの時。
もう3年かぁ。すげぇなぁ…。
そんなことを考えながら、上手く言おうとかそういう風に思わなくてもいいかと思った。
ストレートに誘って、それを詩音が受けてくれるかどうか。
受けてくれる…よな?
そう思いながら見つめていたら詩音の頬がじんわりと色付いていった。
可愛いなぁ…
息苦しさを感じるほどに心臓が強く鳴っていて、でもそれを悟られたくなくて腹に力を入れた。
「…25日、なんだけどさ、詩音」
テーブルの上の、俺より一回り小さい白い手を取りたいのを我慢して、少し触れるだけにした。詩音の細い指がぴくりと動いて大きな瞳が揺れる。
「うち、来ない?」
緊張で喉がカラカラだ。
詩音は元から丸い目を更に丸くして俺を見つめている。
この誘いの意味、解るよな?
「うち…来いよ、詩音」
解ってるから、俺を見て固まってんだよな?
即答は、できない?
まだそこまでは、って思ってる?
永遠とも思えるほど見つめ合って、詩音がぎこちなく頷いた。
唇をぐっと噛み締めた詩音の大きな目が潤んでキラキラしてる。
や…った!
頷いた、頷いてくれた!
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