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「ちょっとトイレ行ってくるー」
と言って教室を出て行く詩音の後ろ姿を見送っていると、中島と三田が俺の席にやってきた。
中島は俺の机に座って、そしてスッと屈んで俺に顔を寄せてくる。
「なぁ、井澤先輩ってお前らのこと気付いてるよな?」
「え、あ…ああ、気付いてる」
三田も隣の席に座って身を乗り出してくる。
「やっぱなぁ。で、羽村をからかってるよな。歪んだ愛情だ」
イヒヒと笑いながら三田が言った。
「だから、井澤先輩が佐伯に触ったのはお前が見てる時だけだからさ、安心しろっつーのも変だけど安心しろ」
中島がニヤッと笑う。
「そうそう。職員室からずっと一緒に来たけど触ったのはあの時だけ。羽村の反応見て面白がってんだよ、あれは」
「可愛がられてんなー、羽村。迷惑だろうけど」
2人が笑いながら教えてくれる内容に、少しだけホッとした。
ほんと友達はありがたい。
「俺、お前らと友達でよかったわ、マジで」
「うわ、なんだよ羽村。おれホレちゃうよー?」
「おれもー」
みんなでひとしきり笑って、別の話題になったあたりで詩音が戻ってきた。
今朝から詩音はなんだか浮かない顔をしている。俺の方を見て何か考え事をしているようなそぶりで近付いてきた。
わっ
そうくるかっ
くるっと背中を向けた詩音は俺の膝の上にちょこんと座った。
そういえば前にもあったな、これ。
やばい
ドキドキしてきた
「佐伯がバスケ部の期待の星を椅子扱いしてるぞ」
中島が俺をちらっと見て、茶化す口調で言う。
「今更今更」
三田もおどけた様子で笑いながら言ってくれる。
この2人のおかげで、詩音は安心できてるんだろうなぁ
俺1人じゃまだまだ難しい
「オレ、今日面談の後、親と帰んないといけないんだよねー…」
詩音がしょんぼりとそう言って、浮かない様子の理由が分かった。
まあしょうがないよな
そんなこともあるよな
そう思うけど、でも。
「佐伯、もちょっと深く座ってくれた方が俺がラク」
そんな言い訳をして、詩音を抱き寄せた。
今のうちに詩音を補給しておきたい。
あー…、冬休み、キッツいなぁ…
つか、その前に土日会えねぇのか…
無心で部活やるしかねぇな
チャイムが鳴って詩音が立ち上がる。
膝の上がスッと寒くなって、離れていくその細い後ろ姿を見送った。
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