70 S

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70 S

 24日はクリスマスイブで終業式だ。学校は午前中でおしまい。  午後はもちろん、バスケ部を見に行く。 「始業式まで見られないの、淋しいしつまんないよねー」  体育館のいつもの場所、キャットウォークで隣に立ってる百瀬さんが、下を見ながら言った。 「うん。休みでも見に来たいよね」 「来たい来たい」  匡也のコートに埋もれながら、手摺りにもたれかかって下を覗いている。 「うわ、格好いいー…」  つい呟いちゃっても大丈夫。百瀬さんは「うんうん」て頷いてくれる。  どうしよう  めちゃくちゃ幸せだ  クリスマスプレゼント両手にいっぱいもらった気分 「バスケ部、25日は休みになったんだってね」  百瀬さんが下を見たまま言った。 「うん、お休み」  オレも匡也を見ながら応えた。 「佐伯くんは明日どっか行くの?羽村くんと」 「え…?」  ドキンと胸が鳴る。百瀬さんがオレを見てくすっと笑った。 「あ、やっぱ行くんだ。クリスマスだもんねー」  百瀬さんがまた、ふふって笑った。 「楽しんできてね」 「…うん…」  とくとく、とくとく、とくとくと心拍数が上がっていく。  今日1日、考えないように考えないようにしながら、ずっと考えてる。  明日のこと…    匡也に家に誘われてから今日まで、長かったような、あっという間だったような、ずっとふわふわしてる…今も。  見慣れたけれど見飽きない、いつもの練習風景を見つめながら、匡也のコートの袖口の匂いを嗅いだ。  大好き 匡也の匂い  百瀬さんと一緒に「すごいすごい」「カッコいいねー」って言いながら練習を最後まで見て、「良いお年を」って言い合って別れた。 「明日の天気予報、覚えてるか?」  オレの肩を抱き寄せながら匡也が言った。  昇降口から出たら外はもう暗くて、それに雲も広がっている。 「覚えてないけど、お天気イマイチっぽいね」  クリスマスなのになぁって思った。 「降水確率40%」  オレの耳元で匡也が囁いた。  あ、と思って背の高い匡也を見上げる。 「俺らにとってはすごいいい天気、じゃね?」  外灯に照らされた匡也の笑顔が、ちょっと幼くてかわいい。 「うん。いい天気…っていうか」  匡也の背中に回してる手で、コートをぎゅっと握ってもっとくっついた。 「いいことが、ある天気」 「だな」  匡也もオレを抱き寄せてくれて、歩きにくいぐらい擦り寄りながら帰った。 「明日また、詩音ん家の最寄駅まで迎えに行くから」 「え、大丈夫だよ?ちゃんと行けるよ?」 「待てねぇよ」 「え…」  思わず足を止めると、匡也が鋭い視線でオレを見下ろしていた。 「1分1秒でも早く会いたいんだよ。だから、迎えに行く」 「…う、ん…」  どどどどって心臓が強く打って、息が苦しい。 「好きだよ、詩音」  そんな甘い声で囁かれたら、オレこそ明日まで待てなくなりそうだよ  うん、て頷いたら、匡也は「かわい」って言って、そして頬にキスしてくれた。  もっとキスしてほしい  匡也のその優しい唇で、もっとオレに触れてほしい  うちの最寄駅で一緒に降りた匡也に「次のに乗って」って我儘を言って、電車一本分長く喋った。
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