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優羽が目を留めたのは、とあるポスターだった。長野県の立山の観光アピール用だと思われるそのポスターには、
「『みくりが池』に落ちた星屑を拾いに来ませんか?」
というキャッチコピーが書かれていた。その一文に、優羽は衝撃を受けていた。
そして、そのキャッチコピーと共に、そこに写し出されていた美しい光景に、目が釘付けになっていた。
ポスターには、立山の雄大な山々を背景とした室堂のシンボルとも言える「みくりが池」が写し出されており、その池の水面には夜空の無数の星々が映り込んでいた。
山々の上にも満天の星空と天の川が写っており、その写真はきっと有名なプロの写真家が撮ったものなのだろう。それはとても壮大で幻想的な素晴らしい写真だった。
優羽はしばらくその写真から目を離す事ができなかった。その時、
「ママ! ママ! でんしゃきたよ!」
流星の言葉でハッと我に返った優羽は、流星の手をしっかりと握りながら列車のドアの前まで移動した。流星は、自分達が今から特急列車に乗る事が分かったようで、満面の笑みを浮かべていた。
優羽は列車内に入ると指定席の窓際に流星を座らせ、自分はその横の席に腰を下ろした。その時、列車がゆっくりと動き出した。
「ママ! でんしゃうごきだしたねー! しゅごいねー!」
流星は嬉しそうな笑顔でそう言いながら、流れゆく窓の外の景色を興味深げに見つめていた。
優羽も流れゆく窓の外の景色に目をやった。すると窓には、ぎっしりと立ち並んだビル群や、ホームから溢れそうな大勢の人々が慌ただしく行き交う様子が映し出されていた。
優羽は、それらの景色を見つめながら、次第にその風景がぼやけていくのを感じていた。
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