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前編
22世紀、人類は、過去に戻りつつある。
以前は、情報社会が主流とされていた。しかし、一つの事件をきっかけに、それは、崩された。
情報社会は、いつでも動画を投稿できる環境、ありとあらゆる情報の収集など、可能性に満ちていて、便利な世の中だった。だが、それを良いことに、悪い方向に思考を向ける人間もいた。例えば、無断で他人を撮って世間の笑いものにする、ありもしない情報を流し、世間を混乱させる、情報を得ることが過度な夢中になり、他者に迷惑をかけるなど。
彼らは、この社会の理不尽さをなくすため、犯行に至った。
犯人は、世界的なテロ組織。人員は、アメリカ国内の警察だけでは、どうにもならない人数だ。
犯行は、各国の人員たちにより、インターネットを繋げるサーバーなどを切断した。
この事件は、21世紀史上最大の大事件といわれている。犯行組織は、サーバーエンジニアの中にもいて、まだ3割ほどしか、逮捕されていない。首謀者含め、残りの人員は、現在も逃亡中である。
画期的な製品であったスマートフォンやパーソナルコンピューターは、世界中のインターネットの接続が切れたことで、不要となった。
ところが、幸い、電話回線は、無事だった。これまでメールで行われていた、店の予約や友達との会話は、全て電話で行われるようになった。スタンダードなコードレスやハンドフォンの他に、電話機の種類は、広がっている。ライトニング社では、電話回線を使って、メールもできる手軽な携帯電話機を発明した。販売は、昨月、2103年の12月から始まった。流行は、まだこれからだろう。
社会への影響は、もう一つある。それは、情報発信のあり方だ。インターネットがなくなった今、SNSやディジタル広告で宣伝していた企業にとって、大打撃を食らった。だが、そのような荒波に流されなかった企業はある。
マルクス家のリビング、そこで、サードがテレビを見ていた。14歳ながら、サードは、歴史に関心があった。
しかし、肝心なところで、兄か姉にチャンネルを回されてしまう。これがいつものことだ。
その時、サードは、無性に腹が立つが、心に留めている。今日は、何となく分かっていた。荒波に流されなかったのは、看板やチラシで宣伝をしていたところだ。授業で教わったことが記憶に残っている。
青年ながら、正直になれない理由は、過去にある。
初めてチャンネルを回された時、サードは、兄に怒った。
「今、僕が見てたのに!」
「うるさいっ! お前は一番下だから、この家で叱る権利なんかないんだよ。」
「そんなの、理不尽じゃないか!」
「お前より、年が上だから、仕方ないだろ。」
口喧嘩をする声が聞こえたのか、母が間に入ってきた。
「こら、サード。暴力はいけません。」
「僕、殴ってなんかないよ。」
「大声で怒鳴ったじゃない。あんまり、騒がしくしていると、怒りますからね。」
サードは、失望した。この人たちに怒っても、意味がないのだと。自分は、家族の中で、居候のようなものなのかと。
それから、彼は、家族と会話を控えるように、避け続けた。チャンネルのことで言い合うのも、面倒なので、それも我慢した。
ところが、サードは、我慢の限界であった。なぜなら、学校での友達が転校をしたからだ。友達は、家の中も居心地が悪かった彼にとって、救いだった。
元々、資産家の家のため、サードは、エリート校に通わされた。最初は、孤立していた。親は一流でも、自分は、三流以下。関わりにくい性格の生徒が多く、学校自体に馴染めなかった。
また、孤立した生徒を標的に、いじめる生徒たちもいた。サードは、彼らに個室便所に閉じ込められ、バケツの水を被りそうだった。その時、一人の生徒が止めに入った。いじめていた彼らは、バケツを奪われ、水をかけられた。彼らを追い出し、取っ手に掛けられたブラシを取り除き、サードを出した。その時、助けた生徒が彼の友達である。
それから、二人は、いつも一緒に帰っていた。趣味嗜好は、合わなかったが、おかげで、暗い学校生活も楽しく感じた。しかし、親の仕事の都合で、転校することになった。
「大人になったら、こんなこと、当たり前だ。」
そう思いながら、サードは、通い続けた。だが、学校へ行くと、いじめられる日々に逆戻りだ。
そんな日々が辛くなり、サードは、何日か部屋に引きこもってしまった。
中では、ベッドの毛布に包み、歴史の本を読んでいた。
両親がいくら怒鳴っても、聞く耳を持たない。サードが引きこもっている間、姉が何度か頼み事をした。
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