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葬儀は、テキサスの葬儀場で行われた。ビリーのアイデアから、豪華な式にするはずだったが、サードは、生前に「目立った式にしてほしくない」と言っていたことを思い出し、参拝者が三人だけの小さな式となった。ハートは、そこの墓地に埋葬された。
葬儀を終えると、ハートが眠る棺桶を霊柩車が乗せ、葬儀場を出発する。三人は、マスターの車で、後を追った。後部座席に座るビリーが、ハートが亡くなった時のことを話す。
「どうして、気づいたんだろうな。」
「あぁ。あいつが父の遺産を隠すと思わなかったが、なぜハートが見つけたのだか。」
あの時にあった大きな袋には、大金が入っていた。金額を調べると、500万ドル。サードの兄が渡すはずだった金額と同じだ。
彼の思惑は分からないが、何らかの理由で、あの空き家に入れ、探してくれるのを待っていたのかもしれない。サードは、そう推察した。
「ま、何はともあれ、ハートは、最期の力で、俺たちへの恩返しをしたんだ。それだけでも、凄いと思わねえか?」
「そうだな。」
ビリーがそう言うと、サードとマスターは、うなずいた。
大金は、サードだけのものとなった。他の二人は、「サードのものだから」と遠慮した。
大金を得ても、サードは、配達員という定職が変わらず、日常を送っている。だが、少し変わったことがある。
テレビに映るもの全てに、興味がわく。これまで、そんな強欲な気持ちはなかった。
今のほうがマシだ。家族のような最低な人間になるのを恐れ、サードは、その欲を抑えてきた。だが、限界が訪れる。
ハートが亡くなって一週間後、サードの金遣いは、荒くなる。家の中は、高級インテリアばかり。食料も高級品。ビリーとマスターは、それを見て、心配になる。
ある時、ビリーがサードの家に訪れた。すっかり変わってしまった内観を見て、ビリーは、注意した。
「お前、少しは、節約とか考えたほうがいいぞ。」
「ちゃんとしてるよ。金がないなら、増やせばいい。」
「それって、ギャンブルか?」
「そうさ。君もやってみないか? 楽しいぞ。」
サードは、楽しそうな顔だった。ビリーと顔を合わせず、ソファにくつろいでいる。
「サード、ギャンブルはやめとけ。いつか、馬鹿を見るぞ。」
「説教か。生憎、同級生の声は、耳に届かないな。」
サードは、台所へ行き、ウィスキーをコップにたんまり注ぐ。
その時、ビリーは、コップを奪い取った。ビリーは、コップに入った満タンのウィスキーを、一気に逆さにし、垂直に零した。
「何しやがるっ!!」
サードは、怒り狂い、ウィスキーの瓶をビリーに振り回す。ビリーは、必死に避ける。
今のサードは、理性もない。欲のままに動く子供でしかないのだ。彼を説得することを諦めた。
「お前の目を覚ますためだよ!!」
ビリーは、持っているコップを使い、サードの頭に向けて、叩いた。
ゴンッ!
サードは、真顔で目を開けたまま、倒れた。
ガシャーンっ!
瓶は、彼の手から離れ、床に落ちた。その衝撃で、それは割れ、破片が床に散らばった。
ビリーは、彼の首筋を触った。
「サード・・・。」
脈がない。冷たくなっていく彼に気づくと、ビリーは、泣き崩れた。無数のグラスの破片が散らばり、ブロンズカラーな水溜まりができたキッチンの中で。
🌙
いつかの夜、ハートは、夢を見た。良かれと思ってしたことが、悪い方向に行ってしまう夢を。
今日は、土曜日。サードの兄は、夕方頃にやって来る。彼は、遺産の一部を渡すと言うが、サードは、断固拒否する。夢で見た出来事が現実となった。
ちょうど、ハートは、ラジオ番組のプレゼントキャンペーンの応募ハガキをポストに入れに行っていた。その帰りに、サードの兄の存在に気づいた。彼を見た時には、サードに引き返され、リムジンに乗るところだった。リムジンが走り出すと、ハートは、後を追った。
走りながら、脳裏に、遠い過去の記憶がよみがえる。
それは、ハートの生みの親である博士と、屋上で話した時のことだ。
夜空に光る無数の星を眺めながら、博士は言った。
「君は、自分自身が生きた証を世間に知らせてやりたいと思うか?」
「思いません。ボクは、今が一番幸せだから、博士と過ごす時間で十分です。」
「そうか。なら、約束してほしい。これからは、予知能力のことを自慢しない。」
「どうしてですか? 人の役に立てるのに。」
「いいかい。人は、自分自身の利益を求めて、利用できるものがあれば、利用する生き物だ。時には、手段を選ばず、悪事に走る輩もいる。私も同じことをしてきた。君を悪事の材料にしたくない。だから、人には言わず、私もそうしないようにする。」
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