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「もし、誰かが危ない橋を渡る運命と知っていても?」
「そうだな。それなら、こうしよう。本当に助けたい人なら、助ける。人にバレないように。スパイのようにね。」
「スパイ、何だか、楽しそう。」
「楽しいか。アハハハハ。」
楽しい夜だった。でも、翌朝になると、彼は、ロボットショップにいた。電源を切られ、売られてしまったのだ。
そこの店主の話を聞き、事実を知った。博士は、もう長くなかったことを。あの夜が別れの言葉だったことも。
リムジンは、町を出ず、サードの家からだいぶ離れている空き家の前に止まった。
ハートは、後を追い、止まっているリムジンに隠れて、サードの兄と部下の話を盗み聞きした。
「全く、馬鹿だよな。遺産をくれてやるっていうのに。」
「昔のこと、まだ根に持ってるんですかね。」
「謝ってやったのに、頑固なやつだ。」
「俺から見たら、猿芝居でしたよ。」
「こいつ、部下のくせに。」
「そこ、認めないとこですよ。」
「そうだったな。ハハハハハ。」
二人は、サードのことを嘲笑うかのように、笑いながら、大きな袋を運んだ。
玄関の中に入った二人を見計らい、ハートは、裏に回り込む。裏側には、小さな庭があった。森のように、木が沢山生えている。
チャンスだと思い、彼は、そこの木に隠れ、ベランダの窓から見える二人の姿を覗いた。
何かを話している。ハートは、家の壁に移り、耳を澄ました。
「ところで、どうして、こんなところに金を?」
「せっかく、持ってきたのに、渡さないまま帰ると、ママに顔向けできないだろ?」
「こっそり、我々で貯蓄したりして、使えばいいのでは?」
「ママ、GPSつけてるかも。」
「まだ信じてるんですか。あの噂。」
「当然だろ。それにさ、住民がほぼいないし、どこかに置いとけば、探すだろうと思って。」
「でも、見つけられなかったら、どうすんですか?」
「そうなっても、面白い。いずれ、ここの住民は、乏しいまま、死んでいくだけだ。」
「酷いこと言いますね。」
「まあ、俺も根に持ってるからな。あいつのこと。」
夢では、彼の気持ちなんか知りたくないため、去りゆくのを待っていた。でも、今のハートは、違う。
彼は、窓を勢いよく開け、入った。
「なんだ、あれは!?」
「あいつのロボットか。もう壊れたかと思ってた。」
「どうして、サードを嫌うの?」
ハートは、怒っていた。最愛の人を苦しめた人間を目の前にして。
「聞きたい? わかった。なら、そのクソ小さいメモリーに記憶しておけ。」
サードの兄は、ハートの頭をポンポンと手のひらで叩き、悪そうな笑みを浮かべた。
「あいつが逃げ出した後、俺は、目指していた俳優の夢を諦めざる負えなくなった。きっかけは、親父が銀行の跡継ぎを強要してきたことだ。姉貴は、売れないミュージシャンと駆け落ち。俺は、やりたくもない仕事をしてきた。だから、あいつが出て行かなければ、俺の夢は、叶ってたんだ。」
「それは、後悔だよね? あなたたちがサードをいじめなければ、彼は、出て行かなかったから。」
「家族で、出ていくやつがいるか? あいつは、弱い人間だったんだよ。勉強にも追い付けず、ちょっとしたことで心を病んだり。」
「他人が言わないでっ!」
「それは、こっちのセリフだ。血が繋がってるんだ。何言っても、良いのが家族だろ? お前があいつを語ってんじゃねえぞ!」
サードの兄は、ハートを蹴った。
ハートは、横に倒れ、床に叩き付けられた。ハートが立ち上がろうとするが、彼の部下がそばに駆けつける。
ハートは、とどめを刺されると思っていた。しかし、彼は、ハートの体を持ち上げ、立ち上がらせた。
「お前、何やってんだ。ブッ・・・!!」
部下は、サードの兄に近づき、素早く、彼の腰に蹴りを入れた。思いもよらぬ攻撃に、彼は、気を失い、倒れた。
「会社員として、初めてです。上司蹴ったの。」
「どうして、こんなことを。」
「単に、腹立ったんです。仕事に誇りを持ってない。やりたくもないのに、やってるからって、理不尽なことまで強制させるこの人が。」
「なるほど・・・。」
ハートは、唖然とした。この後の彼の対応は、とても丁寧だった。サードの兄の仲間だったとは思えないほど。
「こいつ、いや彼のことは、ご心配なく。お金、こちらに置いておきますので、サード様?にご伝言ください。」
彼は、気絶した上司を運び、部屋を出た。
このお金、どうしよう。ハートは、悩んだ。大金を見ながら、沈黙に更けていると、部下が戻ってきた。
「そういえば、あいつのせいで、渡し忘れていたものがありました。お母さまからこれを。」
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