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彼は、ハートに手紙を渡した。これをヒントに、名案を思い付いた彼は、部下に「ペンはある?」と訊く。
📅
葬儀を終えた後、サードたちは、車でハートが眠る霊柩車の後ろを走る。
「どうして、気づいたんだろうな。」
「あぁ。あいつが父の遺産を隠すと思わなかったが、なぜハートが見つけたのだか。」
大金が入った袋は、そのまま、あの家に置かれていた。
「ま、何はともあれ、ハートは、最期の力で、俺たちへの恩返しをしたんだ。それだけでも、凄いと思わねえか?」
「そうだな。」
ビリーがそう言うと、サードとマスターは、うなずいた。
建てられたハートの墓の前で、サードは、一枚の手紙を封筒から出し、広げた。
愛すべき息子へ。
あなたのことは、正直、分からなかった。急に、私たちを避けるようになって、反抗もしていたから。
電話で、母からの話を聞いて、やっと分かりました。あなたは、何も悪くない。悪いのは、分かろうとしてなかった私。
時間を巻き戻せたら、やり直したい。
お金だけで、償いにならないことは、分かってる。あなたは、私を許さないと思う。でも、これだけは言える。あなたのことは、いつまでも愛している。
あなたは、自分の名前を三番目に生まれたからと思っていたけど、そうじゃない。サードは、パパと考えて決めました。
結婚する前、パパと私は、野球観戦に行きました。その時、三番目のバッターが立つと、味方の人たちが期待をしてなさそうな雰囲気にしている光景を見ました。二回、ストライクをしてしまい、彼以外の人々が三振で終わると思っていました。しかし、彼は、三度目で打ち、ホームランを果たしました。歓喜の声を上げる中、パパは言った。
「3番目のバッターが3度目で奇跡を起こした。3という数字は、凄いな。」
サードを産んだ時、私とパパは、ふとそれを思い出しました。
あのバッターのように、周りに影響されない、強い子になってほしい。そのつもりだったけど、あの頃のあなたには、まだ早かったかもしれない。だから、あなたに分かりやすく教えようとしたの。いえ、何を言っても、言い訳にしかならないわね。これも、あなたを理解してあげられなかった私の過ちです。今まで、ごめんなさい。
マルクス・ベリーより。
「ハート、君は、最期まで、僕の家族のことを気にしてくれていたのか。」
声をかけても、返事はない。でも、何となく、サードには、ハートが返事をしてくれているように思えてくる。
それは、さりげなく吹いている風の音ではなく、風に揺られる緑の草木でもない。でも、それは、サードにしか分からない。
「ありがとう。」
サードは、そう言った。手紙を折りたたみ、封筒にしまう途中、彼は、気づく。
「これって・・・。」
「どうした?」
封筒の内側には、何かが書かれていた。それを見たマスターとビリーは、「破ってもいいから、裏返してみろ。」と促した。
縦の側面を切り、内側を広げて見ると、三人は、驚いた。
愛するサードへ。
今までありがとう。君と過ごしてきた時間がどんなに楽しかったか。
くだらないことで喧嘩したり、友達と遊んだり、恋もあったり。君の成長する姿を見るのが、幸せだった。
晩年になったら、四人で遊ぶことが日常茶飯事だったね。
ボクが病気になった時は、沢山迷惑を掛けたね。ビリーとマスターにも。
このお金は、感謝の気持ちです。ボクには、こんなことしかできない。
「サード、君ってやつは・・・。」
サードは、微笑み、手紙の上に涙をいくつも零した。
「サード、泣くなよ。手紙が濡れるだろ。」
「君も泣いてるじゃないか。」
サードとビリーは、お互いに、泣きながら、笑った。二人の間にマスターが入り、口を挟む。
「あと、無駄遣いするなよ。」
「おぉ、そうだったな。」
「あれを思い出すと、ハートは、最期まで、僕らを支えてくれたんだって思うよな。」
「そうだな。」
サードたちは、ハートがもう一つ遺したものを思い出し、土の下に眠るハートに、本当の笑顔を見せた。
「これでよし。スワン君、どこまで書いた?」
「もう終わりました。それにしても、よく考えますね。こんなこと。」
サードの兄の部下であるスワンとハートは、いくつかの札束の帯にメッセージを書いていた。
「間違った道に踏み外してもらいたくないからね。」
「愛を感じますね。」
ご利用は計画的に、ギャンブルはやめろ、幸せは身近にあるなど。札束の帯には、三人へのことが書かれていた。
書き終えたハートは、目を瞑り、しばらく瞑想に入る。
彼の見た未来は、夢で見たものとは違い、とても幸せな三人の姿が映し出されていた。
「うん、これでいい。」
彼は、スワンと少し遠い未来の準備を済ませたのだった。残された者たちへの幸せのために。
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