前編

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 頼み事は、宅急便の受け取りやテレビの修理業者への対応だった。しかし、それは、姉が母から頼まれたことばかりだった。肝心な姉は、いつも家を出て、友達と遊びに行く。きっと、サードを従順な召使いにしか思っていないだろう。  とはいえ、一目を避けていた彼にとって、辛い出来事だった。目を背けながらも、彼は、必死に頑張った。  でも、やったのは、姉。彼女は、母が帰ってくる前に、家に着き、帰ってくれば、自分の手柄にする。そして、僕は、一日中、引きこもっていたことにされる。  サードは、この不公平さに、姉への怒りを覚えた。その怒りから、彼は、あるイタズラを思いつく。  ところが、突然、姉から頼み事をされることがなくなった。  サードは思った。なんて、ついていないのだろう。わざと間違ったことをして、姉に罪を擦り付ける作戦に出ようと思ったのにと。  姉は、サードの部屋の前で、罵るようなった。多分、友達と上手くいかなかったのだろう。  「ただの居候」、「家の恥さらし」など、酷いことを言われたが、サードの耳には、届かなかった。もとから、家族の言葉を鵜呑みにしたことがなかったから。  空が暗くなってきた頃、聞き覚えのある声が聞こえた。  「サード。サード。」  祖母の声だ。サードには、家族の中で唯一、自分を分かってもらえる良き理解者がいた。それが祖母だ。  祖母は、月に二回来るはずだった。でも、今日は、三回目だ。  「おばあちゃん。どうして?」  「サードが引きこもってるって聞いたら、心配で来ちゃったの。」  「心配かけて、ごめんなさい。」  「いいのよ。嫌な事は、無理にするものじゃないわ。」  「うん。」  「ところで、一回、おばあちゃんと出掛けないかい?」  「どこへ?」  「サードの行きたいところなら、どこでもいいわよ。」  「ホント? ありがとう!」  彼にとって、こうして甘えられるのは、祖母だけだ。サードは、祖母と家を出て、車で出かけた。    サードが行きたいと言ったところは、「ペットショップ」だった。運転中、祖母は、ハンドルを握る手を震わせた。運転に支障はなかったが、祖母は、「トイレに行く」と言い、トイレ前に向かった。そこにある電話ボックスに入り、彼女は、電話をした。  「もしもし? 今、ペットショップにいるんだけど。」  電話の相手は、母だ。祖母にとって、娘に当たる。  「ペット!? 世話が大変だから、飼うなって、言ってるのに。あの子、私たちに嫌がらせでもしたいのかしら。」  「そういうこと、言わないの! あの子は、まっすぐした良い子よ。あんたの育て方が悪いんじゃないの?」  「分かった風に言わないでよ。」  「喧嘩はあとよ。可愛い孫を待たしてるから。飼う飼わないは、あの子の自由でいいわね?」  「なんで?」  「決まってるじゃない。あんな学校、あの子には合わなかったわ。あんな冷たい夫も。二人の子供は、あの人に似たのかしらね。」  祖母が責め立てると、母は、黙って、電話を切った。  ため息をつき、振り返ると、ドア前に、サードが立っていた。ドアを開け、祖母は、サードに寄り添った。  「サード、どうしたの?」  「学校の子がいたから、ここで待ってた。」  サードの言葉を聞くと、祖母は、彼の小さな体を優しく抱きしめた。  「大丈夫。私が守ってあげるわ。」  抱き合った後、二人は、ペットショップに入った。  店は、繁盛していて、多くの客で賑わっている。  「あのワンちゃん、可愛いわね。」  「そうだね。」  「へぇー、ハリネズミもいるのね。昔より、幅広いわ。」  「うん。」  サードは、飼いたそうな様子は、見せなかった。それよりも、動物園に行くように、眺めているだけだった。  店を出て、祖母は訊いた。  「サード。何か飼いたいから、来たんじゃないのかい?」  「見に来ただけだよ。うちじゃ飼えないの、分かってるから。自分だけで面倒見れないし。」  「そうかい。」  もう一軒、祖母は、寄った。おもちゃ屋だ。  「おばあちゃん。悪いけど、僕は、ゲームや玩具には、興味ないんだ。」  「いいからいいから。」  おもちゃ屋に入り、何組かの親子がおもちゃやゲーム売り場を見ている。「買って」と威張る子供、ゲーム体験コーナーで喧嘩する子供たち、サードにとっては、少し恥ずかしかった。  奥へ進むと、別の店があった。  「また、ペットショップ?」  「今度は、少し違うぞ。世話は、あまりしなくていいからな。」  「どういうこと?」  「まぁ、いいから。」  祖母に背中を押されるがままに、サードは、店に入る。そこは、沢山のロボットが売られた店だった。  「ロボット?」
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