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それから私と先輩は、様々な道を巡った。
公園の近く、横断歩道の白線が少し消えた道。
アスファルトの舗装が剥がれかかった、ちょっと怖い道。
川の流れが一望できる、普通の道。
田舎の道は時間経過と共に色味を変える。微妙な光の入り方で表情を変えるその景色達を、先輩は美しいと何度も言った。美しさに拘るその姿が一番綺麗だなんて言葉が喉から出かかって、寸前で止めた。
物の怪が出そうな墓の近くの道。
山に入ってすぐの、まだ赤く色付いていない紅葉の木々達が支配する道。
蛇みたいにうねって暗いトンネル道。
一応先輩には道に対する思想があるみたいで、何でもかんでも撮る訳では無かった。自然や人工物が近くにあって、先輩の胸を打つ物を優先して撮っていた。
私はその様子を色々な物を食しながら見続けた。バニラアイス。たこ焼き。唐揚げ弁当。地元の特産品(名前は忘れた)。
先輩は少食なのか、積極的に食事をしようとはしなかった。お昼時でも私が提案するまで、胃袋の事を省みていなかった。一つに集中すると他には何も出来ない、不器用な人だった。
「命の味はどんな感じかな?」
「言い方最悪ですね。最高に美味しいです!」
「……おお」
先輩は蕎麦を啜って、私は唐揚げ定食を食べた。一つ目の唐揚げよりしっかりと揚げられていて、サクサクとした食感が癖になる。
「無茶苦茶食べるな……」
「明日からダイエットするので」
「……おお」
さっきから反応が悪い。曖昧な返答ばかりだ。
「先輩お腹痛いんですか?」
「いや、そうじゃなくて……」
「あ!私の唐揚げ欲しいんですか?あげませんけど、揚げたての蒸気なら吸わせてあげても良いですよ?」
「……本当、助かるよ」
「……そんなに蒸気が好きなんですか?」
先輩は食事を続ける。
何か変だなあと思ったけど、唐揚げが私に食べられたそうにじっと見ていたので、食堂のおばさんにご飯大盛りのおかわりとキャベツの追加を頼んだ。
先輩は何故か楽しそうに、私をじっと観察していた。
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