八十八夜

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 人間て面倒くさいなあ。  手を動かして庭いじりしたり、足をつかって動き回ったり。  このまま土になって、自分の背中をミミズが這ったり、頭の上に花が咲いたりしても、別にかまわない、ような気持になる。  天気の良い日にぼんやりと土いじりをするとそういうことを考える。  もしかして今は土用の期間中だったろうか。うっかり土いじりをしてしまった。  軍手についた土を払って立ちあがる。  背中を太陽がじりじりと焼いている。  時期の遅いうぐいすが、わりと近いところからホケキョと鳴く声が聞こえる。 「ご精が出ますね」  後ろから女の人の声がして、振り向くと、垣根越しにお隣の奥さんが目を細め口角をきれいに上げて会釈した。 「いいお天気ですね」  私も彼女と同じくらいの笑顔になるよう、相手の顔を鏡にして会釈した。  彼女はまた笑顔を返すとそれ以上無駄話をせずに、自分の敷地の方を向いてしまった。
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