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「お初にお目にかかる。貴公がかの夸父で間違いないかの?」
どこか威圧的な低い男性の声が特徴であるが、その外見もまた奇妙の一言に尽きる。
黒装束(フード付き)を身に纏い、顔は三つ目の鬼面で覆い隠されていた。
「貴様、どうやってここまで辿り着いた?ここは人間如きが足を踏み入れることの出来ない場所だぞ」
夸父は荒々しい口調で相手を威嚇するように言い放った。
「愚問だな。我輩がそこら辺に転がっている人間ではないということ。とどのつまり、我輩は神仙ということだ」
「なっ、神仙だと?」
それを聞いた夸父はすぐに跪いて地に額を擦り付けた。
「神仙である貴様、いやそなたに頼みがある。この哀れな巨人に不老不死の妙薬を授けてはくれぬか!」
「クックック、これは面白い。これほどの大男が小物にこうも軽々と頭を下げるとは実に滑稽だ」
「恥を忍んでのお願いだ。先の見えない闇から、死の恐怖から救ってくれ!」
「ふむ。流石に恥辱の情はあるか。その殊勝な心掛けに免じて望みの物を与えよう……と言いたいところだが、生憎、我輩は望みの妙薬の作り方など心得ておらぬものでな」
「なっ、そんな……」
まるで死刑宣告でも受けたが如く、地に顔を埋めてしまった。
「しかし、方法はある」
地に顔を埋めていた夸父が顔を上げた。
「太陽だ。太陽は不滅の象徴として今日まで存在しているが、そこには烏が棲んでいる。その烏はまさしく太陽の力を具現化したようなもの、即ち不老不死の身体を持っている。つまり――」
「その烏を捕えればいいのか?」
「クックック、ご明察。貴公が取るべき行動はただ一つ。太陽を追いかけ、日が暮れる前に太陽を手に入れ、烏を捕える。ただの人間には不可能だが、貴公のような巨人であれば可能なことだ」
それを聞き、夸父の目には先の見えない未来に怯える弱き者へ救いの手を差し伸べる救世主のように映った。
夸父は力強く立ち上がり、空に煌々と照り輝く太陽を睨みつけた。
「決まったようだな。それでは我輩はこの辺で失礼する」
「待て。貴様の、いや、そなたの名を教えて下さらぬか」
夸父に引き留められ、躊躇することなく、
「瘡悩だ」
と答えると、姿を消してしまった。
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