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その灼熱が地上に旱魃をもたらすことだけはあり、その酷暑に流石の夸父も喉が渇いた。
この近辺には大きな大河がある。旱魃の影響で勢いはやや衰えているが、それでも喉を潤すには十分過ぎる量はあった。
夸父は一旦休憩を取り、大河の水を飲んだ。
相当の距離を駆けた為、喉はそう簡単に潤わなかった。
その内潤うだろうと思って勢いのまま飲み続けた結果、あれほどあった大河の水を全て飲み干してしまった。
これには飲み干した当人でさえ驚きを隠せなかったが、不可思議なことに、喉は一向に潤わなかった。
途方に暮れる夸父であるが、ここから北へ進んだ先に大きな沢があることを思い出した。
背に腹は代えられぬと、一時太陽を追いかけるのを中止し、夸父は大きな沢を目指して北へと進んだ。
だが、その道のりは想像以上に険しかった。今までは平地が多く、ただ駆けていれば良かったが、先に進むにつれて道は険阻になり、断崖絶壁の岩壁をいくつもよじ登らなければいけなかった。
しかも、太陽は西の彼方へと傾き、空は夕焼けへと染まり始めていた。
無尽蔵とはいえ、夸父の体力は疲弊し切っていたが、休憩を挟むことは出来なかった。
結局自身の身体に鞭を打つ形で進み続けると、目的の大きな沢は目の前までに迫った。
漸く喉の渇きから解放されると安堵した次の瞬間、堰を切ったように目眩が襲い、全身から力がまるで天へと吸い込まれるが如く抜けていった。
それほど時間が経たぬ間に夸父は意識を失い、身体はピクリとも動かなかった。
やがて日が沈み、地上は闇に包まれた。沢を流れる水の音だけが響く中、暗闇を月の仄かな光が地を覗き、息絶えた夸父の巨体を非情にも明るく照らした。
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