某記事

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 五人のテロリスト達が国会を襲撃して自爆するという衝撃的な事件から四日経過したが、警察は引き続き厳重な警備体制を続け、至急設置された献花台は既に三つ目となっていた──。  取材班はテロリスト達の中で唯一の女性かつ前科の無い■■■■容疑者(XX)が何故この凶行に参加したのか、そのルーツを探るため、かつて生まれ育った▼▼へおもむいた。  彼女のかつての高校の同級生Aはこう語る。 「彼女は母親が好きで、いつもベッタリでした。母親も彼女の事を大切に思っていたようです。だけどある時突然家出して行方不明になって……。あの後の母親の嘆きっぷりは見てられませんでした。  さらにAは、母親について語ってくれた。 「彼女の母親は気さくな方です。あと、とても勘のいい方で、宝くじは当たるし、昔あの人の自宅近くで大規模な火事があったときも嫌な予感がするからって運良く逃げられたそうです。それくらいあの人の勘は神がかり的なんです。まるで未来が視えるみたいで」  しかし、その母親はある事件がきっかけで、激変してしまう。 「■■が蒸発してから暗くなって、その勘も鈍ってたみたいです。自動車事故で脚が動かなくなって、しかもガンになって、動けない状態でした。『生きてくれればそれでいい』って笑いながら言ってましたけど、どう見ても悲しんだ表情でした。その後、母親が亡くなって弔いにも来ないのかとみんな怒っていたけど、まさかこんな事に……」  また■■容疑者の知人であるBから、母親との関係についてとある証言を得た。 「これは(■■容疑者の母親が)亡くなった後に知ったんですが、母親と娘は血が繋がっていないんです。今は無くなったんですが、『★★★』っていう児童養護施設の孤児らしいんです。■■は小さい時、母親の娘である事を凄い自慢していたんです。しかも血が繋がっていると思っていたようで、それも毎回自慢気に言ってたんです。母親を馬鹿にしたら滅茶苦茶怒りました。だから、もし■■がその事を知ったら、死ぬ程ショックだったかも」  ■■は三年前に地元をでて行方不明になり、地元の知り合いは彼女の消息をほとんど知らなかった。しかし、その家出後に一度だけ会った事のある友人Cから、重要な証言を得た。 「■■に偶然会ったんで少し話してたんですけど、心ともないって感じでした。出てった後に縁でNPOに入った事以外は話しませんでした。だけど(■■容疑者の)母親の話をした途端、滅茶苦茶泣いたんです。あんまりにも子供みたいでビックリしました。落ち着かせるのに時間が掛かりました」  なんとか落ち着かせたその時、Cは彼女のある言葉が、今でも引っかかっているという。 「小さい声で『こんな世界滅ぼして死にたい』って言ってたのが今でも耳に残っています。あの時の眼は、今でも怖かったです」  「生きてくれればそれでいい」と願い、■■容疑者の母親は願って天国へと旅立った。しかし当の本人は、百人以上の死傷者を出した史上最悪のテロリストとなって死んでしまった。母親の願いを踏みにじるどころか、あの世では一生会う事はおそらく無いだろう。  如何なる理由があっても大量虐殺を許してはならない。だが、彼女が何故このような凶行に参加したのか、その理由の一端が見えたのかもしれない。
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