未来視の母

最期の手紙

　愛する娘の■■へ。

　お元気ですか。あなたが悲しい顔で私の前から消えて三年以上経ちましたね。
　この手紙を読んでいるという事は、私は末期癌で天国へと旅立っているはずです。
　あなたが今何処にいるのかどうしても掴めず、知人にお願いしてこの手紙を渡しました。様々な人の手を介してあなたのもとに届いたのだと信じています。
　最後にあなたに一目見れない事、そしてあなたが何故出てったのか理由を知る事が出来なかったのがとても心残りですが、一日でも幸福に生きているのなら、それで満足です。
　以前、あなたはいつも「何故、父さんがいないの」と尋ねましたが、その度に、私は「いつか理由を話すから待ってね」と答えないままになりました。ですが、私の寿命が残りわずかだとわかり、スマホやパソコンが苦手なので、この手紙に書くことにしました。
　あまりに私の身勝手な理由だから、あなたは悲しんだり怒ったりするかもしれません。でも、ここから書いた事は、嘘偽りのない本当の事です。

　私は以前、あなたに「私には、三年先までなら様々な未来を予知して見る事が出来るの」と話しましたね。最初は信じてもらえませんでしたけど、言ってはいけない道を話したのにあなたが無視をしたら事故にあったり、テストの点数を正確に当てたりして、あなたはやっと信じてくれました。
　この力は私が生まれた時から目覚めました。それによって私は何度も危機を免れ、幸福な人生を歩む事が出来ました。
　しかし、どうしても避けられない事が出てしまったのです。
　それは、「子供が出来ると、子供が必ず死んでしまう」という未来です。
　私はありとあらゆる分岐を未来視しました。ですが、相手が富豪でも貧乏人でも、結婚年齢や出産時期をずらしても駄目でした。半分以上は流産で、残りは子供が成長しても、未来視の限界である三年以内に必ず死にました。病死から事故死まで、様々です。
　その確定された未来は思春期の頃から見え、ありとあらゆる複数の未来を探し続けましたが、結局見つける事が出来ず、成人になって結婚を諦めました。ですが、私は子供がどうしても欲しかったのです。その思いは、年を取るごとに日々膨らみました。
　子供が死なず、成長する方法がないか探し続けているうちに、ある二つの条件を満たせば、子供が三年以上生きるという事が分かりました。
　一つは、「夫をつくらない」事です。父親がいないのは、あなたを少しでも長生きさせるためだったんです。ですが、誰が父親かはわかりません。何故なら、それはもう一つの理由が関わっているからです。
　そのもう一つが、「私と娘に血縁関係が無い」事です。あなたは、児童養護施設から引き取った孤児なのです。
　私は子供欲しさに、まだ赤子だったあなたを引き取りました。だから、あなたが友達にいつも「私には素晴らしい母親の血を引き継いでいるの」と自慢していると知った時は、心苦しく、話せませんでした。本当ならもっと早く言うべきだったのに、隠してしまい、本当にごめんなさい。
　あなたの本当の両親は、獄中で亡くなった事以外はわかりません。あなたを保護していた施設は統廃合によって無くなり、火災事故によってその時の資料が燃えてしまったそうで、あなたの本当の両親の手掛かりを掴めない状態です。本当にごめんなさい。手がかりとして、あなたがいたかつての施設の名前を記載します。●●の★★★という所で、☆☆☆☆☆に統合されました。

　本当ならば、あなたの行方を、この力で確認したかったのですが、あなたが消えたと同時に、力がいきなり消えてしまいました。三年どころか明日すら見えない状態になり、私は事故で脚が動けなくなり、癌が手遅れになる程進んでいました。もう、あなたを抱く事もままならない身体です。
　私のわがままで全く無縁だったあなたを引き取り、育てました。そしてあなたの出生を今まで隠していました。本当に本当にごめんなさい。ですが、あなたを心の底から想う気持ちは本物です。あなたが何か願いがあって出てったのなら、私は応援します。
　私は幸福で私より長い人生を送る事が出来ているのでしたら、それ以上望みません。
　あなたの願いが叶えられるよう、天国から見守っています。

　あなたの母　□□□より