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「意図的っていうのはつまり……私に旦那の浮気現場を目撃させるのがってこと?」
「そういうこと」
明日香はまたあっさりと、私が追いつけなくなるようなことを言い出した。
「……あんたには悪かったと思うの。まさか、福岡まで行っちゃうなんて。でもね、それを聞いてあたしは確信した。あんたに頼んで良かったって。あたしだったら、空港で諦めていたかもしれない。あんたは違う。これという目標を定めたら、絶対に追いかけるのをやめない。……小学校の時も、中学の時も、ずっとそう。結果が出るまで、決して諦めずに追いかけてくれるって信じてた。黙って利用して、ゴメンね」
私はぽかんとしながら、明日香の話を聞いていた。
「あたしはあんたに賭けた。そして、最高の結果を出してくれた。東京に帰ってきたら往復の交通費を出すし、いいランチを奢る。将来あの男から慰謝料を取れたら、豪華なディナーにも行こう」
明日香は興奮気味にまくし立てたあと、ぼそりとこう言った。
「……ありがとね」
「……そんな、感謝されるようなことは……。結局、女の人と会ってる現場を見たってだけで、捕まえて問い詰めるようなこともできなかったし」
私はこんな性格だから、感謝されるとまずは否定から入りたくなってしまう。しかし、明日香はその上から畳みかけた。
「いいんだよ。もし追い付けば旦那の方も気付いちゃうし、この後の証拠集めがしづらくなるからね。あんたは必死で追いかけてくれるけど、あとちょっと追いつけないっていうところが良いんだから」
私は衝撃を受けた。
明日香の私頼りでちょっと腹の立つ計略ではなく、彼女の言葉に、だ。
結局この後、私は明日香と二言三言交わして、高いランチの約束を取り付けた。私を騙した分のお金と、それから最後に余計なことを言った分。
私は自分にとっては徒労に終わった旅を思い返し、福岡の空を見上げる。
――あとちょっと追いつけないっていうところが良いんだから。
なるほど。私がコンプレックスに思っていた「あとちょっと追いつけない」という性質は、発想を変えれば活かすことができるのだ。
どこかの探偵事務所でも受けてみる? 例えば、尾行のプロフェッショナルを目指して……とか。
私はすっかり機嫌が良くなって、福岡のグルメを調べ始めた。
ふふっと漏れた笑みは、空きっ腹に豚骨ラーメンの画像を見たからか、自分の可能性を見つけることができたからか。
その答えは、自分にもわからない。今は、まだ。
私は自分の先走る感情にすら、すぐには追いつけないのだ。
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