素質

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「あのっ。福岡行きのチケットって、まだ買えますか?」  受付の人はぽかんとしていた。  そりゃそうだ。  私は明らかに、この場にそぐわない恰好をしていた。  上下ジャージで、右手には弁当の包みをぶらさげている。  近くの公園に行くだけならまだしも、福岡までの2時間弱の便に乗ろうなどという姿ではない。  幸い、私が乗りたかった便はまだ販売を行っていた。券売機からゆっくりと出てくる搭乗券をひったくるように手にして、保安検査場へ向かう。 「あっ、そっか。手荷物検査……」  手作りのお弁当箱と、ジャージのポケットから出した財布と電池の切れたスマートフォンという3点セットのX線映像は、何というか、家出してきたみたいで、寂しいものだった。  いっそ検査官がツッコんでくれれば、この居たたまれない感情も多少の逃げ場があったろうに、彼は私の荷物が乗ったトレーを無表情で渡してきた。  それがお仕事だからね、仕方ない。  私は今、ある人物を追いかけている。  なぜそんなことをしているのかは、良く分かっていない。  ここまで来たらもう、後は意地だ。地の果てまで追ってやろうじゃない。
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