素質

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 私のエンジンのかかりの遅さは筋金入りだ。  エピソードはいくらでもある。  小さい頃、友達と自転車を乗り回して、近所の公園を巡った経験がある人は多いんじゃないだろうか。  そんな小学生の自転車隊列があれば、私を探すのは簡単だ。一番後ろで、必死にペダルを漕いでいる子がそれだから。  ある時は、花びらをじっと眺めていたら置いていかれたし、またある時は、みんなの動き出したタイミングでチェーンが外れたり、靴ひもがほどけたりして。  いつだって、みんなの少しあとを追いかける形になってしまう。  これは小さい頃の思い出話では終わらない。私が成長してからもずっと付き合っていかなければならなかった、いわば体質のようなものだ。  中学の頃、陸上部に入った私は、エースの子を追いかける立場だった。自分でも意外だったのだが、走ってみると案外タフだった。おかげで、1,500メートル走の代表選手にはなれた。でも、どうしてもあと一歩のところでエースの子に逃げ切られてしまう。  高校に上がった後は、遊びに出かけるたびに誰かを追いかけていた。  流行りの服や小物という意味でもそうだったし、約束の時間に間に合わないことも多かった。私が出かけるとよく電車が遅れたし、どうしようもない腹痛が襲ってきて、途中で降りるなんてこともあったっけ。  大学受験だってそうだ。  第一希望に落ちた時はショックだった。未練がましく自己採点をしてみると、合格ラインまであと一点足りなかったことがわかって、こんなことするんじゃなかったと後悔したものだった。  まあ、そんな私だからこそ、今こうして福岡行きの便に乗っているのだ。
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