素質

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 ぽん、と間抜けな音がして、シートベルトのサインが消えた。  搭乗中、私はお腹が痛いふりをして、化粧室まで何度か往復した。  左右を見回してあの人を探すけれど、見つからない。この辺りには座っていないのだろう。  もっと遠くの席まで探しに行きたいが、それはさすがに不審者が過ぎる。ただでさえ、上下ジャージで目立っているのに。  結局私は、周囲の目線や自分の羞恥心に負けてこのチャンスを逃してしまった。  思ったよりも快適な椅子。ほどよく揺れる機内。サービスで振る舞われたコーヒーの香り。あまりの心地よさに、ちょっぴりうとうとしてきた。  近くにいないなら着陸までは頑張ってもしょうがない、と自分に言い聞かせて、私は目を閉じることにした。  本当なら今頃、家で寝っ転がってたはずなのに。  そして、何にもない日曜日の昼をだらだらスマホをいじって過ごしていただろう。  この完璧な日曜日の計画が狂ったのは、どこからか。  いや、うん。考えるまでもないな。明日香の家に泊まったからだ。
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