素質

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 明日香は、小学校時代からの同級生だ。  ちなみに、さっきのエピソードのほんどに彼女は登場する。  明日香という私の友人は、  小学生の頃、誰よりも早く次の公園に向けて自転車を走らせたし、  中学生の頃、陸上部のエースで、いつも私より少し早くゴールしたし、  高校生の頃、他の誰よりもお洒落で、私の目標だった。  私が受からなかった第一志望の大学に進学したのも、彼女だ。  私は彼女に嫉妬することはない。……いや、それは言い過ぎかな。さすがに、たまに劣等感を持つことはある。  何に挑戦しても下の子が上の子に追いつけないって感じで、兄弟姉妹間ではよくあるって言うけど、私と彼女みたいな関係性は、そう多くは聞かない気がする。  ともかく、そんな間柄だけど、今でも仲良くさせてもらっている。  明日香はとっくに結婚していて、泊まりに来てと言われたときには驚いたし、気まずく思うところもあって一度断った。旦那とは軽く顔を合わせたことがある程度で、そんな相手が家に泊まるのも、向こうから見てどうだかなって。  だけど、結婚からしばらく経っていたのと、たまには夜通し語ろうよなんて誘われてしまったら、行っちゃうに決まってる。  実際、昨晩は楽しかった。いつも小さな缶チューハイ1本くらいしか飲まない私が、大学生以来だろう量を飲んでべろんべろんになった。  翌朝、つまり今朝。ジャージ姿のまま、ちょっとガンガンする頭でまどろんでいると、玄関で旦那を見送る明日香の声がした。  顔でも洗わせてもらおうと思ってリビングに出ると、珍しく慌てる明日香の姿があった。  片手には弁当箱。どうしたのと声を掛けると、彼女は言う。 「あの人、忘れてっちゃった。でも、私は用事で家にいなきゃいけないしな……」 「……届けてきてあげよっか? 私、今日暇だし」 「本当? めっちゃ助かる!」  明日香から弁当箱を受け取ると、私は明日香の家を飛び出した。  明日香の旦那はちょうど角を曲がるところで、走れば余裕で追いつけそうだ。……普通の人であれば。  そう、私は私であることを忘れていた。  どんくさくて、運が無くて、追いつこうと思ったものに追いつけない星の下に生まれてきた人間だということを。
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