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到着口からロビーまで走ると、ようやく彼の後ろ姿を見つけた。
羽田で彼の後ろ姿を見た時、航空会社で受付をしているところまでは見ることができたが、行き先までは確認できなかったので、若干の不安はあった。
しかし、受付で迷わず「福岡行き」のチケットを買い求められる程度には自信があった。私はいつも追いつけないが、追いかける相手の背中を見失ったことはない。
そんな博打を打ちながらも福岡まで来てしまったのは、自分の意地だ。
昨日、明日香と話しているときに口をついたのは、自分の追いつけない体質というか、性分というか、ともかく目標としているものにあと一歩届かないということに対しての愚痴だった。
酒の勢いも借りた私なりに思い切った告白だったのだけれど、明日香は、そんなの知ってるよと笑い飛ばした。そして、追いつけないという先入観を捨てれば、何とかなるかもしれないよと言ってきた。
確かに、心持ち次第で何かを変えることができるかもしれない。
明日香から弁当を託されたとき、私の中にあった諦めの気持ちが、ぼっと燃焼してエネルギーに変わった……んだと思う。
しかし、これほどまでに困難な道になるとは思っていなかった。
明日香の旦那が乗り込んだバスに間に合わずタクシーに飛び乗って、見失わないまでも数台後ろの位置から前に出られなかったのは、やきもきとした。
ここまでうまくいかないと、何か運命めいたものを感じる。
結局、この福岡空港でも彼に追いつくことはできなかった。タクシーを捕まえて「前の車、追ってください!」と運転手にお願いする。
一日に二度、東京と福岡でこのセリフを言ったことのある人間は、人類史上私が初めてかもしれない。
彼のタクシーをやはり数台遅れて追いかける私のタクシーは、のろのろと進みつつも止まらない渋滞に巻き込まれながら、市内を進んでいく。いっそ止まってくれれば、タクシーを降りて直接渡しに行けるのに。
これに乗ったまま、どこまで行くのだろう。
いっそ、観光気分で楽しんでやろうか。
福岡と言えば、美味しいものがたくさんあるし。
……そんなことを考えていると、ふとお腹が鳴って、自分の置かれている状況の奇妙さに気が付く。
自分の服装や、飛行機に乗ってしまったことや、タクシーで前の車を追いかけているという状況にではない。
飛行機で福岡に行く旦那に、弁当を持たせるなんてことがあり得るのか? ということにである。
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