3.きみの側で過ごしたい

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 声をかけたいのに、俺の口からはひゅーひゅーとした空気が漏れるだけだった。 「……蓮が、なんでそんなに番になりたがらないのかわかんないよ……。ごめん、ちょっと頭冷やしてくる。蓮は危ないから外出ちゃダメだよ?」  玄関を出る寸前、少しだけ振り向いてくれた彰と目が合った。  俺より絶対苦しそうな表情の彰は、それでもやはりヒートの俺を案じてくれていて――…… “あんな顔、させるつもりじゃなかったのに”  悔しくて、苦しくて、痛くて。  彰に釣られたのか俺の目にも涙が滲み、出ていく彰が揺れて見えない。  なんで、どうして。  何がダメだったのか。 「俺はただ、怖かったんだ……」  失うことが怖くて、彰の居なくなった日常を恐れて。  この居心地のいい部屋も。  俺の為に作られたこの空間も全部全部、彰が居なくちゃ意味なんてないのに。
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