にじむ夜空の下

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 街灯と月明かりが照らす住宅街。人通りもない静かな夜道に美香の立てる不規則なヒールの音が響く。幼馴染の春奈と優斗の結婚でテンションが上がっている美香は帰路でもずっと陽気だ。今も調子の外れた鼻歌を口ずさんでいる。  結婚式のために帰省した俺たちは、実家に泊まる予定で途中まで一緒に帰っている。こうして美香と歩いて帰るのは中学生以来だ。あの時はここに今日の主役であった二人も交えて四人だったけれど。  俺は引き出物の入った紙袋をぶら下げてその後ろをついて行ったが、だんだんと覚束ない足取りになる美香に流石に不安になってきた。大人になって久々に再会したが、酒はあまり強くはないようだ。 「おい、ちゃんと歩かないと転ぶぞ」  俺がそう言うと、美香は赤い顔で振り返った。 「だいじょおぶだよぉ。それよりもハジメも一緒にやろ? 黒いタイルしか歩いちゃダメだからね!」  酔っ払って少々呂律の怪しい美香は俺の心配を笑い飛ばし、俺の返事も待たずに先に行ってしまった。言われてみれば確かにその足は、歩道に使われている三色のタイルの中から黒い部分だけを選んで進んでいる。  綺麗に着飾った美香の姿に、ランドセルを背負っていた子供の姿が重なった。あの頃はよくこうして幼馴染四人で遊びながら帰っていた。懐かしくて少し胸が締め付けられる思い出に浸っていると、目の前の背中が不意に傾いだ。俺はとっさに紙袋を放り慌てて美香に近寄るとその腕を掴む。なんとか顔面から地面に激突は避けることが出来たようだ。 「あっぶねぇな! だからちゃんと歩けって言っただろ、この酔っ払い!」  思わず怒鳴りつけた俺に美香は目を瞬かせると、何がおかしかったのか笑い出した。コイツがこんなに酒に弱いとは知らなかった。俺は怒るのもバカらしくなりため息を一つつくと、美香をちゃんと立たせる。 「足首ひねってないか?」 「うん、だいじょうぶ」  言葉通り変に庇ったような立ち方もしていないから問題なさそうだ。頭を小突いて、放った紙袋を拾い上げつつ「気をつけろよ」と言うと素直に頷いた。 「帰りに怪我したなんて言ったら二人が悲しむもんね。それにしても、いいお式だったね。春奈も優斗も幸せそうだった」 「……そうだな」  幼馴染たちの結婚式の様子を思い出し、目尻を下げてしみじみと言う美香に一拍遅れて相槌を打つ。気を抜いていたからか出た声は思いのほか固く、祝福とはかけ離れていた。気づいた時には遅く、俺の調子に気づいた美香が胡乱げな視線で見上げて来た。
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