光売り

　光売りは少年たちに頭を下げた。
　「良いお取引ができました。ありがとうございます」
　最後に天秤棒を担いだ光売りについて尋ねてみる。彼女曰く、彼は大の光好きで、特に命に関係する光が好きなのだという。
　「彼が得意としているのは命の灯火ですね。亡くなる間際の命の火を集めて売らずにご自分で持っているそうです。あとは走馬灯が大好きみたいですが、これは収集するのが困難で、彼であっても三つしか持っていません。かくいう私も五つしか持っていなくて、譲ってくれと頼まれても死守しています。そのときのあの方、とても饒舌(じょうぜつ)になるんですよ」
　おかしそうに笑う彼女を死神と呼びたくなったが、二人は我慢した。
　「功介」
　「何？」
　「約束だからな」
　顔を合わせる。光売りから数歩離れると、強すぎた光はちょうどよく二人を包んだ。
　二人は互いの笑顔を確認し合い、頷いた。
　「うん。走ろうな」
　じゃあ、俺こっちだから。功介は手をひらりと振って脇道に入っていった。もう杖が路面を叩く音は聞こえない。
　禅介は光売りに背を向け、通りを歩き始めた。
　しばらく進み、一度だけ振り返ると、光売りはまだ立ったままこちらを見ていた。姿が消えるまで見送るつもりなのだろう。
　月も街灯も沈んだ街で、彼女の周りだけがただ一つ明るい。その色とりどりの光の中で、二股の尾を持つ猫があくびをした。あくびに吸い込まれるように、ぼんやりとした人魂が回転しながら浮遊している。
　客の帰りを見守る商人の頭上から、一匹の大きな蛾(が)が現れた。
　蛾は魔物に取り憑かれたようにふらふらと屋台に近づき、真ん中の段に置かれた一等強い輝きを放つ光に止まった。
　蛾の肢体(したい)が爆ぜた。閃光が生まれ、消えた。
　バラバラに砕けた羽と共に落下する鱗粉(りんぷん)を、光売りは瀟洒(しょうしゃ)なガラス瓶でさっとすくい取った。
　一瞬の閃光を反射した鱗粉は、今も彼女の手の中で光を照り返し続けている。
　禅介の視線に気づいた商人は、可愛らしい笑みで首を傾げた。

　禅介が家に忍び込み、音をたてないように部屋に入ったときには、窓の外から街灯の光が彼を静かに迎えていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　終