光売り

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 そろそろ大通りを抜ける。水が湧き出て落下していく音が聞こえてくる。噴水のある公園は夜でも息をしているようだ。ぼんやりと街灯に照らされた水のオブジェが見えてくる。  「そろそろ公園に着くな。天秤棒の光売りがいたらすぐに走ってつかまえようぜ。禅介、怪我大丈夫か? 走れないなら、俺、先行って確かめてくるよ」  「待って、功介」  彼の杖が理由を聞くようにコッ、コッと鳴いた。  「違和感がある……うん、そうだ」  足を止める。一拍遅れて功介も止まった。  ここには光売りはいない。  そう、禅介は判断した。  「どうして」  功介が問う。  「見て」  前方を指さす。  功介はまだわからないらしい。  「何を見るんだよ」  「街灯。光ってる。大通りの街灯は消えてるのに」  今まで経験したことのない暗さの中にいる禅介だから、すぐにわかる。今の彼からはぼんやりとして薄汚れたような街灯の照明ですら、真昼間のように明るく、眩しく感じる。  「光売りは月がなくて街灯も消えてる真っ暗な夜にやってくる。実際、大通りの街灯は一つ残らず消えてるだろ。でも公園の街灯はいつも通り点いてる。多分、公園から先も街灯の光があるはずだ」  「……つまり、公園から向こうは光売りの行動範囲外ってことか?」  禅介は強く頷く。  「街灯がないのは大通りと、その脇道だけだと思う」  二人の歩みが止まったことで、辺りはいっそう静まり返っている。耳をすませば家々の中からいびきが聞こえてきそうだ。  「どうする? 引き返すか、そこらの脇道を適当に選んで入るか」  功介の問いに、禅介は弾かれたように反応する。公園の街灯が見えたときから答えはすぐに用意していた。  「右の脇道に入ろう。着物の光売りは右手に入っていったわけだから、すくなくとも左に行くよりは出会う可能性が高い。天秤棒はもしかしたら反対に行ったかもしれないけど、運が良ければ二人同時に見つけ出せるかもしれない」  ちょうど、右手に脇道があった。道幅が狭いから大通りよりも遥かに暗い。遠近のない、(たいら)な黒に見えるほどだ。  功介が先陣を切った。躊躇(ためら)うことなく一枚の黒い板に突っこんでいく。  禅介はその後に続き、壁に手を添えながら、人知を超えた光が目に飛び込んでくるのを覚悟するように、闇を進んでいった。
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