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「もっと言ってないわ!!」
しゅん、としたと思ったらニヤッと笑われる。
完全に遊ばれているとわかっていてもどうしようもなくて⋯
“くそ、これが惚れた弱みってやつか?いや、つかこれ相手がただ何枚も上手なだけの気もするがっ!!”
葛藤する心の声を、今度はもう漏らす訳にはいかないと必死に口をつぐみつつ、いそいそとチャックを上げる。
敵前逃亡?知るか!
逃げるが勝ちとも言うんだよっ!
とにかく俺はこれ以上格好悪いところを見られまいとそそくさとトイレから出ようとし⋯
「あ、ゴキ⋯」
無意識に言ってしまい、ハッとして慌てて彼の方を振り向いたのだが。
「あー、最近多いなぁ」
なんてチラッと虫を見たかと思ったら、「またね」なんてにこりと微笑み俺の横を過ぎて階段を上っていった。
そんな彼の微笑みを近距離で浴びて“いや、顔が良い⋯”なんて感想しか出なかった俺は、彼が『虫がいたからこの階のトイレまで来た』のに『目の前に出た虫を平然とスルーした』という矛盾に何の疑問も持てなくて。
「また経理部の階のトイレに虫出ねぇかな⋯」
なんて、アホな一人言を呟くのだった。
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